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zoom RSS 永遠に眠る〜No3

<<   作成日時 : 2006/04/01 18:56   >>

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ケーキは夕飯の後に出された。
母にサバラン、私はイチゴのムース、父に本当は私が食べるつもりだったショートケーキがまわり事なきを得たが、やっぱりショートケーキが食べたかったなぁと思う。
まあ、自分のミスだから仕方がない。何しろあの父のことだ、もしムースをまわそうものなら
「ムースなんてもんをなんで俺が食わなきゃならないんだ。こんなゼリーともケーキともはっきりしない中途半端なもの、人間の食うものじゃない。」
そう言って平和な雰囲気をぶち壊すこと請け合いだから。
人が隣でこうしてムースを食べているのさえいい顔しないのだ。とりあえず母の誕生日くらい平和に済ませたいという孝行心を少しは汲んで欲しいものだけれど、そんなことは当の昔にあきらめている。

ケーキに続いて誕生日プレゼントと「おめでとう」の言葉。
趣味で油絵をやる母に私は油絵の具をプレゼントした。絵の具といっても地元の文房具屋で打っている1個100円程度の安物ではない。こういうものはピンからキリまで、油絵の具に関して言えば高いものは1個2000円以上する物がざらにあり、そうしたものは都内の画材専門店に行かないとなかなか手に入らない。腰が悪く5分歩くのも億劫がる母にとって都内での買い物は不可能に近い。私と同様、色気のないプレゼントだが母にとっては何より有難いのである。
「誕生日おめでとう。」
「ありがとう。でもねえ、お目出度くもないわね、この歳で。誕生日なんてなきゃいいのに。」
そういえば、こんなセリフは去年も、一昨年も、その前も・・・毎回くり返されているなと思う。

私がまだ小さい頃、母親の誕生日にカレンダーの日付を黒で塗りつぶしたことがあった。
「これで今日はなくなったから、お母さん年とらなくて済むよ。」
苦笑いする母。馬鹿だなぁと言いながらも感心する父。ぽかんとしている姉。
そしてユーモアを効かせただろ?といわんばかりに自慢げな顔をする私。
確かこの時私は小学生低学年、おそらくこれは3年生くらいだったと思う。この時既に、こんなプレゼントを思いついていたということは、それ以前に同じセリフを母は口にしていたということだろう。つまり母は20年近く「誕生日なんて来なきゃいいのに」と言い続けて来たに違いない。
普通、小学生低学年の母親ならそんなに歳を気にすることもないはずだけれど、母は違う。

何しろ私はかなり「遅くに出来た子」だった。姉とは10歳離れており、親戚も年上ばかり、正月や冠婚葬祭で集まる親戚の中でも私は一番チビ。遅くに出来たということは当然、クラスメイトのお母さんとも10歳以上の年齢差があり、だから私は授業参観も運動会も大嫌いだった。
あの日以来、私は毎年カレンダーの母の誕生日を黒く塗りつぶしたけれど、もちろん母は確実に1年1年歳をとっている。あれから20余年、母は確実に年老いとうとう四捨五入して70になる年齢になってしまった。さらにこれから20余年生き続けてくれることを心から思うけれど、私があんなに苦労をかけなければ30年は生きられるはずじゃないかと今さら思う。

「めでたさも中くらいなり誕生日、だわね」

そう言って笑い飛ばす母を、私は強いと思う。
今は老人ホームに暮らす祖母なんかは、誕生日を祝うごとに
「何にも出来ないのに、こんな婆さんがこんなまで生きちゃってごめんねぇ」
と心にもない申し訳なさを披露する。そしてまわりの人間がこういうのを期待しているのだ。
「そんなことないよ、何にもしなくて当たり前なんだから、まだまだ元気でいてね」
そうして予想されたその答えに満足の笑みを浮かべるのである。
誕生日に限らず、ここ数年は顔を見せに行く度くり返されるこの受け答えに私は辟易していたけれど、どこもきっと同じようなものなんだと諦めている。

そんな父方の祖母に対して、母方の祖母はそれはもう元気なバアさんだ。バアさん、なんていうと失礼な言い方にとられるかもしれないけれど、決して私は悪い意味でいっているのではない。バアさんといっても笑い飛ばされそうなほど元気でさっぱりしている人で、そのパワーたるやすさまじく、古稀の誕生日に秩父34箇所の札所巡りを歩いて回ったということからも実証済みだ。だから私は(もちろん本人目の前にしては言わないけれど)愛称と勲章の意味を込めてバアさんと心の中で呼び掛けている。
きっと母にたいしても私はバアさんと呼びかけるようになるのだろうと、思っている。

そんなバアさんから生まれた母だから、どんなに歳をとっても腰がつらくてもシワが増えても、誕生日のめでたさを中くらいなりと言えるのだろう。
中くらい。半分はめでたいといい続ける母を私はすごいと思う。
たとえその半分の歓びがケーキ一つの美味しさだったとしても、だ。

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