■空蝉草紙■

アクセスカウンタ

zoom RSS 『風の影』 by カルロス・ルイス サフォン

<<   作成日時 : 2006/09/27 20:08   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1

画像
これは青春モノだろうか?ミステリーだろうか?ロマンスだろうか?ホラーだろうか?
どれにも当てはまるし、どれ一つだけ突出してとっても足りない。

私は一人、一つの時代、一つの場所だけに限定された話というのは好きではない。
多面にわたり、たくさんの人間が関わり、幾世代も時を経て時を重ねて、
付いたり離れたりしながらいくつもの事象が流れを作る、そんなストーリが好きだ。
この『風の影』はまさにそんな物語だ。
くり返される出会いと悲劇、何度も現れては消える『影』
見え隠れする過去が実は『過去』ではなく現在進行形ですらあるという事実。
二転三転する人物像、主人公にオーバーラップする影の存在。
この影こそが主人公=少年ダニエルが見つけた最後の一冊『風の影』の作者フリアンだ。

フリアンの本はこの世から次々と抹殺されていき、ダニエルの手にする本が最後の一冊であり、次第に彼にも魔の手が忍び寄ってくる。
後半までフリアンへの復讐劇かなにかの仕業かと思われ、その期待を高めるべくフリアンの過去、彼の友人と恋人と親達の暗い影が明らかになってくる。しかし・・・
一筋縄ではいかない。実際は復讐などよりももっと悲しく、苦しく、狂おしく。
切ない、などという言葉では言い尽くせないほどの憎しみが渦巻いている。
ーーーネタバレになるので詳しくは言わないでおこう。
が、こうしたミステリー要素が読者を最後まで離さない。

そしてなんと言っても、少年ダニエルと愛と憎悪の波乱に満ちたフリアンの人生が近づき平行して、時を越えたシンクロを催してくる。 
読者はこれがあの悲劇のスペイン内乱・・・フリアンの時代の物語なのか、戦後ダニエルの人生なのか、錯覚すら起こすのだ。

「呪われた本たち、それを執筆した男、その本を燃やすために小説のページから抜けだした人物、裏切りや、失われた友情の物語だ。風の影のなかに生きる愛と、憎しみと、夢の物語なんだよ。」

この本は世界から見捨てられ忘れ去られた最後の一冊を保管=埋葬する『忘れられた本の墓場』から、ダニエルが見つけ出したことに始まる。
彼は母親がいない。そしてアイデンティティがどこか失われている。
母親の顔を思い出したとき、母を認められないことを怖れて母の面影を追いつつも思い出そうとしない。 母親を認めることが、自分の存在を確定することになるのに、だ。
知ることを怖れて、影ばかりを追って、彼・彼女を直視することが出来ずに終わった人間が、この作品には溢れている。

私を忘れないで、あたしを逝かせないで、と誰もが求めている。
誰かの心の中に生きることで、私は行き続けることが出来るのだと。
ソレはちょうど本を書き、本の中に自分を吐露し、すべての主人公に自分を反映・・・息づかせることで、読者の心に永遠にいき続けるのと同じことだ。

人との出会いと思い出は、物語を書き綴り読み伝えるのと同じなのだと、思う

愛と憎しみと、張り裂けんばかりの狂気が渦巻いた、2世代を超えた物語の末に
ダニエルは『再生』する。
そして彼は次の世代へと、物語を伝えるだろう。

そして私は、この小説を伝えて生きたい

風の影〈上〉
風の影〈上〉 (集英社文庫)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。こちらの本を読まれた方をさがしていてこちらに辿り着きました。久しぶりに読んで良かったと思える本に出会えたのでお話ができれば嬉しいです。
ただ私は無謀にも英語でこちらの本を読みました。理解度は50%にも満たないと思います。
ただどうしても一つ分からないのはJulian Caraxは実は生きていてDanielが持っていた唯一の「The shadow of the wind」を高値で買いたいと申し出た顔の無い男の人と同一人物ではないのでしょうか?Beaが隠れていたマンションに一緒にいたのはJulian Caraxだと思っていたのですが…
読まれた方のレビューを見るとどうも違うみたいなのですが…
いかがでしょうか?
よろしくお願いします。
ふぅうこ
2006/10/28 21:25

コメントする help

ニックネーム
本 文
『風の影』 by カルロス・ルイス サフォン  ■空蝉草紙■/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる