■空蝉草紙■

アクセスカウンタ

zoom RSS 『ハル』 by 瀬名秀明

<<   作成日時 : 2007/03/10 00:22   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像
今までに無い、現実的なロボットモノだ。 ロボット工学とか機械について詳細が書かれているとか、ロボット精神論的な高尚な話題であるとか、未来的であるとか・・・
そういう一切の難しさが排除されており、とても読みやすいストーリーだ。
これほど切実に、未来ではなく今のロボットと人間のあり方を見据えた作品も珍しい。
しかも視点はすべて私達となんら価値観の変わらない現代人だ。
だからこそ・・・この作品は私に大いに感銘を与えてくれた。

そしてロボットと人間とのこの世界における在り方、どう付き合っていくかという課題を軸に、
  人間って何?精神って何?心って何?
  人間が、ロボットに心を求めるのは・・・「アトム」の幻想を求めるのは、なぜ?
という、まことに重く暗い疑問が提示されている。そして求められるのはロボットと、人間と、この世界の未来だ。

いくつかの現実に即した近未来の短編と、一貫して短編の前に語られる少年ロボットの成長譚。この二つが作品の中で同時に平行して流れている。

現実に即した短編に描かれるのは 生きて動いているロボット(ヒューマノイド等)と生きている人間。 今現在とさほど変わらない、性能のさほどよくは無いロボット達とロボットにまだ慣れていない人間達。
少年ロボットの話は、さらに未来である。 彼は意思を持ち成長するいまだあり得ないSF的な、はるか未来にしかあり得ない、今現在の人間には実現できないロボット。
そして、人間ははるか昔に途絶えているという。 そういう、未来のお話だ。

1話目;『ハル』で主人公はロボットに心があるのか?と問いかけ、どのようなロボットを求めるべきなのかという未来の展望を予測している。 
「きみに到達する道を思い描くのではもうだめなのだろう。・・・きみを描くのではなく、きみを超える物語を描かなければならないのだろう。」
今までに無い、想像を超えた、まったく新しいコミュニケーションを果たせるロボットだ。
その、ロボットが未来の少年ロボットなのかもしれない。そうでないかもしれない。
ロボットは、かつての人間とロボットの共通の憧れである「アトム」を探して旅に出他のである。

2話目;『夏のロボット』は精神つまり考えるということについて。「私」は本当に存在しているのか?あれはそこに今本当にあるものなのか?何をもってコレがココにアルと証明できるのか?
まさに存在論というか、精神の在り処を求める話になっている。
「ロボ次郎は本当に自分で考えてしゃべっているの?教えて、本当に、考えている?」
彼女は少女時代に、確かにこのロボ次郎とコミュニケートしていたのだ。では何をもってコミュニケートするのか?ロボットに、相手に、精神を知識を存在させるのはもう一人の『相手』nanoだと・・・そう、私は感じる。
人間のよく似ていながらどこかで明らかに違う新しい知性になるはずだ。・・・その新しい知性が生まれたとき、初めて人間は自分の知性を他の視点から捉えることができるようになる。
人間はなぜ、ロボットに知性を、精神を、心を与えたがるのか。それは人間が「わたしたちは孤独じゃない」と確認するための、孤独から解放されるための夢なのだ。
3話目からは人間とロボットの『追いかけっこ』について語られる。
愛するロボットとともに成長した少女はいつしか成長しないロボットに絶望する。ロボットのまやかしの友情と会話と心に気がついた時、絶望と困惑の中叫ぶ、成長する最新型にして!と。
「ロビイを飽きるなんてできない・・・友達だったのに」
SFは未来にも過去にも行き来できる。だから人間の求める「最新式」つまり今満足できる今この時のロボットと時を共にすることすら可能だ。が、現実はタイムマシーンが無い。COLD SLEEPもない。ロボットは、今この瞬間にも過去のものとなっていく。

最後の話;『アトムの子』。手塚氏の『鉄腕アトム』世代の「私たち」が必死にロボット「アトム」を作ろうと必死こく話。心とは?から少し進んで、正義とは何か?という問いかけ。
 アトムはね、アイデンティティを喪っていたから正義の味方になろうとしたのかもしれない。
逆に言うと、アイデンティティ・・・私って何?という精神=心を持たせるために「正義」をアトムに植えつける必要があるのだということだ。その結果、人間が制裁を受けようとも。
パビリオン地下に眠っていたロボット「アトム」。そのタイムカプセルが開かれた時、アトムが目にする世界はどうなっているだろう?どうか、人間とロボットが「うわべだけ上手くいっている」ような・・・手塚氏の描いたアトムの最終話のような結末にだけは、ならないで欲しい。そう、願う。(注;ココでいう最終話とは太陽に飛び込む例のラストではない。
 「待っていてくれ、今度こそ絶対に追いついてみせる」
ロボットは挫折と希望を人間に教え、提示し、人間は未来に希望がある限り挫折を乗り越えて行こうとするのだろう。
ロボットは、人間に絶望と希望を与えるかもしれないが、結局それは生み出し使う人間の心の反映なのだと、鏡なのだと、そう思う。
未来を作る希望をロボットは過去から今へ、伝えてくれている。
それを託すのも受け取るのも、私達人間だ。


ハル
ハル (文春文庫)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『ハル』 by 瀬名秀明 ■空蝉草紙■/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる