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zoom RSS 『赤朽葉家の伝説』 by 桜庭一樹

<<   作成日時 : 2007/03/18 10:55   >>

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画像狂おしいばかりに己を行き、戦後変わりゆく昭和〜平成の時代を生きた「赤朽葉家」の人々の伝説。伝説、というとなんだか古臭く胡散臭く、現実味を帯びていないどこか遠くのお話、と感じてしまう。が、これはそういった「昔話」でも「民話」でもない。
あくまで「伝説」、しかも延々と行き続けている、今に続いている伝説である。

物語は3章からなり、第一章は辺境の人(山人)と平民とが交流するはるか昔の、私達現代人にとっては「神話」の時代。千里眼(万葉)と製鉄と、丈夫な男と気丈な女たちの内側だけで完結していたある村の神話。
第二章は 神話が崩れはじめ死者が生者を呼び、それでも強く炎のようにがむしゃらに己を己のままで生ききった生死の混同の時代。私に言わせると尾崎豊の音楽のような時代(?)
外の世界、時代の波が古き時代をさらっていき、少しずつ崩れゆく、葛藤の世代。
第三章は 生も死も無い時代、いや、死はある、いつの時代も。しかし死と生とが引き摺らないそんな空虚な時代。何もかもが平凡で、もう何も失うものは無い・・・何からも自由でありながらその自由がナンなのか、何から自由になったのかもわからない、無気力な平凡な時代。
その平凡な時代の平凡な女、赤朽葉瞳子の極めて個人的な平凡な日常の現代のお話、そこに祖母万葉の『殺人』という事件と謎が残される。

昔話や民話、御伽噺が(簡単にはしょると)殆どフィクションであり時と場所を固定しない、空想上で成り立つものであるのに対し、「伝説」は何時何処で誰がどうした、という明確な基となる事実があり、少なくとも現代に「その場所」伝説の舞台が残っていて、その「謂れ」を伝承しているもの、と定義できる(と私は思っている;;)
作品の中で何度か、「サンカだとか小難しいことは民俗学者に任せて・・・」という文面がある。
赤朽葉家をめぐるこの一帯の歴史舞台が、いわゆる民俗学に説明されるようなモノではない、と言いたげだが実はそうではない。確かに登場人物も家も事件も変わっているし変人ばかりだ。千里眼だの裸踊りだの山の人だの、得体の知れない現代にはない不気味さがある。
なのにこの伝説は、赤朽葉をめぐる歴史は、根っこのところで何処の地方でも起こった同じ時代の流れと人間たちなのである。

戦後復興の時期、1960年代。まだその土地を取り仕切る天上人のような上=旧家があり、下界では貧乏暮らしの平民が汗水垂らしてただ働いて食って生きている。彼ら平民は下=表の世界にも開けている一方、上(=赤朽葉家)への畏れを根源的に抱えている。
そして一帯を治める上=赤朽葉家の血筋は、結局「山の人」なのである。

明確には示していないが、赤朽葉を支えてきたのはこの山の民の血なのだろう。
この物語の真の主人公である奥様(万葉)は勿論のこと、大奥様(タツ)もおそらく山女だ。
山の民が当たり前に君臨していた神話以前の時代を生きたタツ、山と下界とが混合しめまぐるしく変遷する時代(戦後高度成長期ともいう)の流れが押し寄せてきた・・・山が衰えて行く時代をじっと生きた万葉。
そして、2000年以降、まさに今現代のこの世界、ビューティフルワードルを、自由に、自由に生きようと決心した万葉の孫=瞳子。

これは一つの村の一つの家の戦後の系譜を軸に、日本の同時期の歴史を綴った物語である。今日TBSで最終回が放送される『華麗なる一族』、製鉄工場の幕開けの話・・・『赤朽葉家の伝説』はまさにその製鉄工場の幕引きから現代への時代の流れに当る。
しかしこれは没落貴族の話では決して無い。 延々と続く熱い血をもった一族の、今を生きる私達人間の血の、神話と歴史の物語である。
久しぶりに大作を読んだ。文量とか長さとか、そういうことではなく、だ。


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アンソロジー『Sweet Blue Age』で、桜庭一樹の良さを知りました。で、栄えある単行本1作品目が『赤朽葉家の伝説』です。 そして、やっぱりいいわぁ〜、とヨロコビに浸っております。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2007/08/05 21:57

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんにちは(^^)。
TBありがとうございました!
毎回、空蝉さんのレビューを読んではああ・・自分は浅はかだな」と反省しきりでございます(^_^;)。

空蝉さんのおっしゃる、「今を生きる私達人間の血の、神話と歴史の物語である。」に、・・おお、そうだそうだと歓声を上げる私がいます。そうですね、ビューティフルワールドは、きっとそこにあるのだと気がつきました。ありがとうございます!
水無月・R
2007/08/05 22:13

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