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zoom RSS 『大日本天狗党絵詞』 by 黒田硫黄

<<   作成日時 : 2007/06/05 11:38   >>

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たまには漫画書評。 ・・・実際には小説よりも漫画のほうが多かったりするけれど。
この作品、絵といい話といいかなり昔の作風だが、何て新鮮なんだ!と驚くばかり。
題名からして天狗。天狗って何?これってファンタジー?いやいやとんでもない。
映画『日本以外全部沈没』くらいアホ臭いテンポと抜きと間があって・・・じゃなくて抜けてる。
昨今妖怪ブームである。たいていの作品は民俗学やら民間信仰やらを引っ張り出してきて、その先達の研究データをベースに話が展開する・・・が、これは違う。
いや、違うわけじゃないんだろうけれど、あまりに独自の世界にはまってしまい、そんなことどうでも良くなってしまうのだ。
天狗とは何か?認識されなくなったものである。という位置づけ方は、妖怪とは何か?という位置づけ方をベースにしているといって過言ではないだろう。
このあたりは京極氏の作品に良く出てくるくだりなのでわりと妖怪好きの方にはピンと来る言い回しだ。人間にとって理解不能な不気味な超常現象・・・未知の事象を、妖怪として名付けることでこちらの世界=既知の事象に置き換え安心を得るという「システム」、それが妖怪。
黒田氏はその妖怪というシステムを全面的に「天狗」に置き換えている。

しかしこれはあくまでもそういう従来の民俗学的な話ではけっしてない。
なぜなら彼ら自称天狗たちは、己が天狗である、という認識の下、天狗であるからだ。
人間からの認識(といっても人として認識されないことが天狗の天狗たる条件だが)を無視して、自我を持ち、賞賛を求め、ついには天狗王国をもくろみ人間を制圧にかかるというとんでもない方向に話は進む。
物語の主人公シノブは幼い頃神隠し同然に天狗の「師匠」に攫われ(?)そのまま天狗となる。シノブは成人し、その頃天狗の地位は失墜して師匠ともどもゴミを漁って食いつなぐ日々。
ある日シノブは生家を訪ねるがそこにはもう自分の居場所は無い。泥人形の「しのぶ」が家族を形作っており、実はその「しのぶ」さえも偽者の泥人形である・・・つまりはアイデンティティの喪失だ。シノブは家族を失い人間からも天狗からも見放され、自分が何者であると言えばいいのか?その答え探しを続けることになる。まさに、いわゆる「私って、何?」だ。

これは結局天狗たちの「天狗とは?」という自己認識の如何にも関わってくる。
天狗テングというが、彼ら自身は鴉か(体内に鴉が入り込んだ)人間かのどちらかでしか登場しない。いわゆる「天狗」というイメージ(認識)は後世人間が造り加えてより具現化したイメージであり、そもそもテングとは神隠しであったり人攫いであったり、失踪であったり・・・つまり人が人として人間から認識されなくなった異界のモノである。

その彼らがいつしか畏れられなくなり失墜し落ちぶれてくると、今度は人間に我ら天狗を認識させようと躍起になる。ココまで来ればもうお分かりであろう、これは天狗の存在条件・存在意義の喪失の物語だ。つまり、最初から彼らはアイデンティティを自ら求めた時すでに瓦解する・・・天狗ではなくなるという結末に落ちていくことはわかりきったことなのだ。
最終巻に出てくる天狗を非情にも具体化した「天狗」が登場する。その姿たるやまさしく人間が後に付けた天狗のイメージを具体化したもの・・・下半身は人間で上半身は鴉・・・なんてシュールな・・・。しかしこのテングは最初から泣きも笑いもせず何も求めず認識されることすらなく山の中にただ一匹(一人)生き続けてきたのだ。
彼こそ本当に純粋な一切の認識を必要としないただの「私」「個」だ。

上=鴉、下=人間という奇妙な生物であるテングの「彼」を見た、自称天狗たちはみな天狗として存在することが出来なくなり瓦解・破滅する。己の信じていたイメージの「天狗」を具体化突きつけられそれが己の認識にそぐわないものである時、あるものはただの鴉に戻り、あるものは人間として帰っていった、様々だ。
己の認識が歪み、現実の世界で認識されている己の姿とのギャップがあまりに大きい時、もしくはそれを受け入れられないとき、自分は自分として己を保つことが出来なくなる。
そういうことではあるまいか。

何はともあれ、非常に考えさせられる作品だ。久しぶりに哲学してしまった(笑)
汝、テングになること無かれ。




それがいつの間にか彼らテングを
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