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zoom RSS 『KAPPA』 by 柴田哲孝

<<   作成日時 : 2007/07/15 00:32   >>

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「ハードボイルドでありながら悪人がひとりも登場しない。不思議な小説だ」
という帯に惹かれて買ったのにはわけがある。
先日読んだ『悪人』(by吉田修一)が非常に私の好みに適った作品であり、素晴らしい作品だったからだ。しかも続いて「心に傷を持つ男達が事件の真相に迫る感動の物語」とある。
『悪人』も結果的には(一人のバカ息子を除いて)悪人はいない。「悪人」に徹することで愛する人を突き放し守りぬいた、いわば悪からの逃避行の物語だった。
しかしこちらには「悪人」が誰一人いないという。じゃあ、犯人は誰で何が悪かった(原因・動機)なんだ!?ってことになる。そんなわけで気になった・・・ので衝動買いした。

結論。衝動買いして正解、これだから勘に頼った買い方もいいもんだと思う。
田舎にて、年代の違う4人の男(&子供)たちが河童の仕業と噂される惨殺殺人事件をめぐって出会い、真相を探り、一皮向けていく・・・人生のケジメと再生の物語だ。
主人公のフリールポライター有賀は妻に離婚され子供にも滅多に会えずブラブラといい加減な日々を浪費している。かつて父親が「書斎」を取り上げられ「男」を失ってしまったように、彼もまた家庭も地位も名誉も金も、すべて失いつつある・・・そんな彼の目に飛び込んできたのがかつて訪れたことのある河童伝説の有名な地、そしてブラックバス釣りの盛んな沼、牛久で起こった惨殺事件の記事だった。

彼の最後の砦である「書斎」=キャンピングカーに乗り込み事件の起きた牛久沼に向かう。
彼を迎えた好々爺・源三は若い頃こそ村一番の偉丈夫で投網の名人であったが今や70歳を迎えかつての筋力は見る影も無い。もう一度若くなりたい、せめて一日でいいから。誰もが考えるその悲願を思う日々である。

有賀に以前河童らしき「動物」を目撃したと証言したのは釣りの名人である太一だ。
かつて村の漁業に惚れこみ入れあげ大成していた父親を持つ中三の登校拒否児童。
彼の父は牛久沼にいつの間にか湧いた悪魚ブラックバスが鯰等の稚魚を食い荒らし漁業が成り立たなくなるのを阻止しようと必死になり結果莫大な借金を作って自殺した。
「不幸な身の上」の子・太一は周囲の気遣いに息をつまらし、また一度行かなくなった学校に復帰する勇気も持ち合わせておらず毎日から回りする、ひとりぼっちの生活である。
どうにかしようと焦り考えるほどに複雑に絡まるリールのラインのような自分に焦りと苛立ちを隠せずにいた。

そして警察の一匹狼・阿久沢は警察という「不自由」に安住して下から叩きあがった一匹狼だ。いや。この河童事件?で彼をコケにする嫌な上司・長富(副本部長)に1ヶ月の猶予を持って辞表を叩き付けたその時点でようやく一匹狼として自由を手に入れたのかもしれない。
自由になった途端水を得た魚、彼は出会いこそ最悪だった正反対のタイプである有賀に協力を仰ぐ。しかし彼にも家庭があり、自由であることに不安を隠せない。

この阿久沢と有賀との会話が この物語をかっこよく彩っている。

阿久沢「強い人間じゃないんだ。多分自由を手に入れた瞬間に不安でいられなくなる」

有賀「俺も以前は自由でいることは男の強さの証明だと考えていた・・・家庭とか財産とか守るべきものが増すごとに男は弱くなっていく・・・最初から何も持っていない奴が一番強いはず立て、そう考えたんだ」「まったく逆だよ。守るべきものを持ち命がけでそれを守り、そのプレッシャーに絶えることで人間は強くなれるんだ」

彼ら4人とも、年代も立場もタイプもなにもかもまったくバラバラの男達だ。そして皆、社会や財産や家族や友達、そういった自分以外のものにプレッシャーを感じたり引け目を感じたり逃げたりしている。もう一度向き合い、もう一度生きたい、もう一度、という願いがある。

彼らに必要なのはそのきっかけであり契機であり、それがたまたま今回の河童事件に集結した。

ミステリーとしては途中カメについて村の子供から質問されるあたりから予想がついてしまう・・・しかもあまり謎解きにはなっていない、ので大したことはないのだが。
しかしこれは立派なハードボイルド。と同時に、男達の成長物語である。
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