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zoom RSS 『漆黒の王子』 by 初野晴

<<   作成日時 : 2007/09/05 21:49   >>

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読み返す、ということを嫌うこの私が何度も読み返し反芻しようやく消化することが出来た。
私の理解力がないだけといってしまえばそれまでだが、何よりそれだけの魅力と謎と壮絶な悲しみと痛みに溢れているのだ。
今日連日のようにニュースで流れる暴力、イジメ、不法投棄処理・・・今に始まったことじゃない。人間の社会はいつだって弱者と強者から成り立っていて、この世界は絶対多数決の常識に縛られ、そこに住む私達はその法則に裁かれている。
そうして人間社会だけで一つの独立した世界を確立し一見均衡を保っているかのように見えるこの人間の世界。生物の食物連鎖から外れているゆういつの動物だ、というのはよく聞く話だ。しかしこの本文に訴えられている悲しみは食物連鎖からの逸脱ではない、「生命連鎖」が断ち切られた痛みであり悲しみである。
天敵のいない人間が、同じ人間だけが脅威となる共食い社会で強者が弱者を押しのけるようにのさばっているこの人間界で、ただ二人だけが生命連鎖の中に入り人間の天敵になろうとした男が「上の世界=地上」にいた。
かつて上の世界で強者に虐げられ後始末に利用され、街下の粗悪な暗渠に押し込められた「下の世界」の住人達。狂人のような彼ら7人は中世オランダの職業名と贖罪と償えぬ過去を背負い、なぜかこの暗渠に甘んじている。 ふと記憶をなくした<彼女>がこの下の世界に現れ、与えられた名『ガネーシャ』が次第に上と下の世界とがリンクしていく鍵となる。
地上のヤクザ二人と、彼らに「永遠の眠りか死か」と制裁を加え続ける謎の人物「ガネーシャ」との戦いは組同士の抗争やマフィアにまで広がり、原点は過去へ内心へと遡る。

「上側の世界」と「下側の世界」が交互に語られる形式は村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を思わせる。しかしあそこに描かれていたような愉快さは無い。
規模から言えば意外と狭く小さな出来事ではあるのだ。
ある地域のよくある不法投棄問題と「副産物」の不正利用、その後始末を背負わされた弱者・被害者達の恨みと憎しみに溢れた復讐劇。こんな簡単なコトバで済んでしまう。
しかしここに描かれたのはとてもじゃないが言い切れない、本当に語りきれないほどのモノが詰まっているのだ。 
根底にあるのは、地上で「生命連鎖」の輪から外れた唯一絶対の生物=人間が、何の脅威も天敵も無く、その世界で差別や虐待を生産し続けているという現状事実。
その弱者の憎しみ悲しみを上の「漆黒の王子」と下の「ガネーシャ」にオーバーラップし、彼らが人間の、強者の『脅威(天敵)』となる二重構図は見事だ。

私が途中、強く印象に残ったのは「死ぬはずの小鳥」をむやみに助けることは小鳥を「生命連鎖の輪」から無理矢理外してしまう罪なのだという、<王子>の言葉。
生命連鎖の輪を紡ぐということ。それは自分の死体を「誰か(他の動物)」が食べて命を繋ぐというこの世界のあるべき循環だ。死体を隠さない、自分の死体を再利用しない生物「人間」は果たして本当に「独り」だろうか?
死んだ後に繋がる事が出来ない人間が、唯一紡ぐことの出来る連鎖の方法がある。
それを本書で見つけて欲しい。 この世界に生きる孤独な人間すべてに。


漆黒の王子
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