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zoom RSS 『猫鳴り』 by 沼田まほかる

<<   作成日時 : 2007/10/03 00:23   >>

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我が家にはペットが絶えたことが無い。今までに飼ったことがあるのは犬が2匹とインコが2匹、兎が3匹と・・・ウーパールーパーが一匹(笑)グッピーや金魚やメダカや蚕・・・勿論同時期に買っていたことは殆ど無くいわゆるとっかえひっかえだったのだが、猫は常に私の家にいた。だから猫というものがどんなものなのか、人よりはわかっているつもりだ。
本書に登場する猫「モン」は やっと授かった子供を死産してしまった夫婦の間にある日ひょっこり現れて、捨てても捨てても戻って来、とうとういついてしまった仔猫である。
不思議な少女に半ば押し付けられるようにして飼う羽目になったモンはそのままたいそう大きく成長し、立派な毛並みの体躯のいい番長のようなオス猫となる。(とこれは3章の話)
本書は3章からなり、第一章ではその飼われるまでの経緯と飼い主たる「命を失った」の夫婦、特に妻のどこか壊れたような心象が描かれる。過去を悔やみ、失ったものに引き摺られ、今を生きることすらおぼつかない脆弱な妻。彼女がモンと出会いモンを子供として認め「生き」始めるまでの物語だ。
続いて2章はまったく関係の無いとある不登校少年と猫の話。父子家庭でけちでみっともない親父や無邪気で悩みの無い子供を嫌悪し、行き場の無い怒りと押しつぶされそうな自らの重圧を抱え「ブラックホール」に魅入られてしまういわゆる青春の悩み・・・J・ディーンの「理由なき反抗」のような話だ。そういう青春時代なんぞとうの昔においてきた私としては微笑ましいくらいだが、それでも私もそうだったのだ、理由なき反抗・怒りに勝手に押しつぶされそうになっていたあの頃、若き日を懐かしく思い出された。
実のこというと私も無邪気なガキ・・・いわゆるサザ○さんのタラちゃん・イクラちゃんは殺したいほど嫌いである。あの天真爛漫な何をやって許される位置と態度は嫌悪に値する。
彼もまた同じくその嫌悪から、公園で子供の殺傷未遂を目撃され警察に補導される。そして迎えに来た父は信じられないほどしゃべり演じ警察を丸め込み、彼を連れ帰った・・・それが彼が初めて「父親」を知った瞬間であり、「ブラックホール」からの帰還であったのだろう。

そして第三章。(第1章の)妻に先立たれた一人身老人と老猫との爺コンビがのんびり余生を送る様が描かれるのだが・・・のんびりのはずの時間で始まったのに中盤、モンの老衰にあわせて切迫してくるのは飼い主である老人の視点で描かれているからだろう。仮にこれがモンの視点で描かれていたなら「自然」である死に向かってゆるゆると流れる時間をゆったりと満喫したきわめて自然なペースの物語になっていたはずだ。老人は衰弱するモンに延命措置を施すべきかそのままにするかをさんざん迷うが、モンの好きなように生かすことを決める。
決めるが、やはりすぐに迷う・・・。私達はドラマや小説の中で何度と無くこのような場面を見てきている。末期癌患者の抗癌剤の使用、寝たきり老人・病人の延命処置・・・延命を中断する場合、残された者が慰められるコトバは決まって「あの人もこれを望んでいたよ」だ。
本書も確かにその気はある、が、彼に降りてきた言葉は「自然」である。
猫がどう思っているか、なんぞ関係が無いと私は思う。人間以外の動物はきっとそのままで死を自然に受け入れる。生の延長に死があり、死は自然なこととして訪れる・・・いや、違う。彼らはただ自然に生の道を歩いているのだ。気がついたら「死」を踏んでいた、そんなものかもしれない。
本文としては老猫が大往生を遂げるまでの経過が同じく年老いた一人の男の目から描かれており、飼い主たる彼はああでもいこうでもないと勝手に右往左往するだけである。
それは置いていかれる事の寂しさであり、同じく近づいている「死」への恐怖でもあるからだろう。しかし彼は「自然」という言葉に何度と無く納得し、目の前でその自然の死の瞬間が訪れるのを見届け、暖かくそれを見守った。
これほど克明にしかし平凡に一匹の猫と一人の老人との交流を描いた本を私は知らない。
今、私の目には数年前に自然死を迎えたあの猫の安らかな顔が浮かんでいる。
彼女もまた、自然な死を踏み越えたのだ。

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