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zoom RSS 『秋の牢獄』 by 恒川光太郎

<<   作成日時 : 2008/01/25 00:29   >>

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何度本屋でこの本の表紙を見かけても、「私の牢獄」に見えてしまう。まだ読んでもいないうちからひどい誤解だった・・・といいたいところだが、あながち間違いでもない、と思う。
3編からなっており主人公も時も場所もまったく違う。なのにどれも「とらわれたもの」達の物語であるということに変わりは無い。

表題作では永遠に11月7日をくり返す羽目になった「replayer」たちが一人また一人とその世界から消滅していく物語。神かもわからない不可思議な存在「北風伯爵」が現れては狩られていく、その先はあの世なのか「11月8日」なのかは解らない。

2作目『神家没落』では男がふと迷い込み閉じ込められた「神様の家」とされる移動空間での物語。周期的に日本の各地を移動・出没するこの牢獄からは「二人いれば一人は出られる」という法則があり、初め出ようと足掻いていた男も、いつしかこの空間に心を砕くようになる。一度は脱出したものの身代わりの男の悪行を知るや・・・

3作目『幻は夜に成長する』は己の中の幻術ビジョンに陶酔し、次第に強くなり他人にも見せることが出来る力を持った女の子の話。幼き頃彼女を誘拐しその力を導いた老婆の正体は宗教団体の教祖であった。元の生活に戻っても、その力を告白しては友も恋人も彼女からさって行く。そんな現実から逃げる先は作り出す幻の王国であり、彼女の運命の行き着いた先はかつての老婆と同じ、宗教団体だった。ただし、老婆とは違い道具として、ではあるが。

簡単にあらすじを述べたが、どれも共通しているのは、普通の人とは一線を隠した異空間に主人公が捕らわれ、もとの、普通の世界(人)に帰還しようと脱出を図るが叶わず、やがてその世界に浸かってしまう、その世界の住人となってしまう、という点である。
それはこちらの世界への不満の表れなのか、それとも他の人間とは違うという優越感からなのか、それは解らない。 ギリシア神話で地の世界に連れ去られた乙女が、冥界の実を口にしたことで冥界の住人になってしまい帰ることができなくなる、というエピソードがある。 それを思い出した。

いずれの主人公も最初これは己だけの経験なのか?知らなかっただけで本当はみな同じなのではないか?と疑う。
つまり自分は特別じゃない、これは実は普通なのだと、まだこっち側の人間なのだと足掻くのだ。
しかし次第にその世界に慣れ、住めば都、そこに安住し利用するようにすらなる。
恒川氏の描く世界は、神の世界と私達の世界、この世とあの世、此岸と彼岸が、言っていれば異世界同士が非常に近くて遠い、危ういところにある。
ふとしたことで交じり合ってしまう、紙一重の世界が並立しいわゆるパラレルワールドが広がる。

そこは神の国であり死の国であり魑魅魍魎の世界であるかもしれない。人はほんのひと時その空間その世界その力に触れ、モトの世界(こちらの世界)の退屈さや凡庸さに気付く。
そしてこちらに戻った時、彼らは浦島太郎同様にこの世界に帰り場所がすでに無いことに気がつく。
変わったのは世界ではなく、それを観る己の目。

もしかしたら明日、私の目の前に神の家が登場するかもしれない。
神隠しにあうかも知れない。特殊能力が身に付くかもしれない。

しかし大事なのはそれら特異が身に付いた時、いかに平常を保てるかということなのだろう。
心が弱ければ驕り高ぶり、やがてそれに頼りきりそれ無しには生きられなくなる。
さて、私にはその覚悟があるのかないのか。

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『秋の牢獄』/恒川光太郎 ◎
背後を、闇を纏った「何か」が通り抜けたような、密やかな悪寒がした。 ・・・これは、本当のホラーだ。ホラーだけれど、ただ恐怖を煽るというのではなく、しんしんと降りつもる仄かな寂しさを湛え、「ひと」の心を静かな暗がりに捕えて離さない。 ・・・何をカッコつけてるのかって?いや、そうじゃないんですってば!ホント、これは、すごいですよ。ガンガン恐怖を煽るホラーは逆に怖くないんですよ。しんしんと静かに、段々と捉えられて、逃げるタイミングを失って、底なし沼に引き込まれて、振り返ると、そこには密度高く... ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2008/01/25 22:28

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
ああ、恒川さんの描く「異界」は、すぐそこに密やかに存在していそうです。
それを怖がってただけの私は、それは「その時の覚悟」がないということになりますね(笑)。
美しい文章とさりげない恐怖、いつの間にかしみわたっていく、ひとの中の闇。
惹き込まれる物語でしたね。
水無月・R
2008/01/25 22:41

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