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zoom RSS 『月の子』 by 石月正広

<<   作成日時 : 2008/02/01 01:04   >>

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飢え、貧困、口減らし、間引き、夜這い、人身御供・・・かつては暗黙のうち当たり前のこととして行われていたココに描かれた史実を、現代を生きる私達はあまりに知らない。
言葉やその意味を知識として得ることは出来る。さも気の毒そうに同情することも、愚かしいと嘆くことも、眉をひそめて非難することも簡単だ。
多くの作品が残酷物語さながらにドラマチックな展開をすべく、「現代人の感性で解釈した」メロドラマに仕あげられる。つまり今現在の日本人の感情尺度で事件を捉えるため、「実際に私の身にこのようなことが起こったらどんなだろう?」から感情が描かれる。 これはよろしくない。比べて本作『月の子』はその点冷静である。実際の歴史資料を下敷にしているとはいえあくまで小説、話を膨らませてはいるが最低限の感情・心理描写に留められ淡々とつづられる物語はいっそリアルであり、同調できない彼らとの温度差が恐ろしくもある。

かの時代(元和1615〜)貧しい田舎でギリギリのところで一生その地に縛られる百姓たちと、生活が保証されどこへなりとも行ける現代の日本人とでは、そもそもものの感じ方、価値観、基準・・・すべてが根底から違う。親が子を殺したら即ニュースになる現代とはわけが違う、そんなこといちいち話題にしていたらキリが無い、そういう時代の話を取り上げているのだ。

しかし。現代とは違い羞恥をあらわにした性文化、まさに運命共同体ともいえる村のマイナスの結束、豊穣と生殖に結びつく風習と祭祀・・・かつての生々しいまでの風俗がところどころに描かれることで、物語はより一層リアルに読者を引き込んでいく。

物語の主人公・累は醜く不体裁に生まれついた。病すら前世の因果応報とされる時代、累は死んだとされる兄・助同様疎まれ捨てられ、裏切られ、夫に殺されるという悲惨な人生である。
面白いのはこの主人公・累が小公女セーラのような聖人ではなく、その境遇にふさわしく捻くれた粗忽者であったということだ。まったくもって現実的かつリアルな設定といえる。
累は死んでからも化けて出る、呪う、憑依する、まさに悪霊ぶりを発揮し村人達を恐怖に貶める。
お前の親もお前らも皆地獄行きだと呪詛を吐きつける。
そう、今の常識からすれば地獄行きで当然のことを当たり前のように皆行っていた、そうせざるをえない時代の物語であり、これは史上の事実なのだ。

無論、いくら時代が違うとはいえそれが許されることであるとも、その事実を持って今に至らしめようというのでもない。
ただ、そうした時代があったということ。
そのような時人はそれが当たり前のこととして麻痺してしまうのだということ。
人はたやすくそこへ陥る弱い生き物なのだということ。
それを胸に刻み付けることは必要なのではないだろうか。

理解できぬような時代の話を、無理矢理現代向けに翻訳して理解しようとする必要はない。
そうではなく、理解できぬほどの異常な時代と心理が人間には存在したのだということをそのまま受け止めるべきだと、切に思うのである。


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