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zoom RSS 『深泥丘奇談』 by 綾辻行人

<<   作成日時 : 2008/05/20 10:50   >>

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祖父江慎の装丁がすばらしくそれだけでも買った価値がある、といったら著者に失礼だろか。しかしそれほど面白く趣向に凝った装丁であり、著者の醸し出す不可思議でビミョーにずれた、ドロリとする世界を装丁が補完して余りある。
いつの間にか入り込んでしまった「らしい」、どこからどこまでが現実なのかわからなくなるゆらゆらとした世界が主人公の前に広がる。ミステリー作家である綾辻氏自身を投影させているのは言うまでも無いが、京極氏の人気振りをチラと劇中劇のように登場させるなどファンサービスもあり、そんな遊び心すら、この不気味にゆがんだ深泥丘に現実味を匂わせ均衡を保っているのかもしれない。 奇談、というだけあって薄気味悪い話、奇妙な話がほとんどだが、どれも「夢でも見ていたんじゃないか?」といって片付けられてしまうような、やはりビミョーな気持ち悪さだ。
ビミョー(微妙)などという言い方は私は好きではない・・・が、この音といい響きといい、なんとも本書の世界にふさわしい。
常一貫して主人公の男はどこか他人事だし、いつも「・・・のような気がする」とどこにも肯定を定めきれないでいる。
同じ苗字の医者が幾人もいる病院、いつの間にかいつでもどこでも現れる看護婦、寄生虫で治療する虫歯、胃カメラに移った自腹のなかの「顔」、見知らぬ電鉄、奇妙な古代塚・・・
普通に暮らす「私」とその周囲はふとしたきっかけで一変し、此岸と彼岸は180度回転する。いや、そもそも「あちら」が現実なのであって、「こちら」などそもそも無かったのでは・・・とリアルの焦点がズレだし、やがて信じていたはずの日常を放棄した時点で、各物語は終わるのである。己の記憶があやふやになる、過去が否定される、すべての「普通」の基準が、常識が通じなくなった世界に一人放り込まれたら・・・これほど恐ろしいことは無い。
どの物語も気持ちのいいものではないが、本当に恐ろしいのはすべてが通じない、己のすべてが拒否されるという世界が突然やってくるということだ。各章が終わり次の章が始まり、どれも何事も無かったかのように「普通に」始まるのに・・・毎回毎章、奇妙な世界にいつの間にか囲まれて、終わる。

人間はマイナスの出来事・・・気味悪いとか怖いとか、そうしたことはさっさと忘れるように出来ている。だから安心して読むといい。本書に現れるどの奇談も、すぐに終わって夢物語のうちに消えるのだから。

深泥丘奇談 (幽BOOKS)
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『深泥丘奇談』/綾辻行人 ◎
―――これは、すごいわ。 じわじわと忍び寄り、いつの間にか入れ換わっている異界。激しい眩暈に見舞われた主人公の作家が今いるのは、昔から知っているの「深泥丘」なのか? 綾辻行人さんの本業は、本格ミステリですが、こちら『深泥丘奇談』は怪奇幻想譚といった趣。 その怪しい世界は、水無月・Rの心をガッチリ掴んでしまいました・・・!! ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2008/11/19 23:19

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
>やがて信じていたはずの日常を放棄した時点で、各物語は終わるのである
・・・明確にして簡潔な表現です!そういうことを書きたかったのに、何行も費やした上に意味不明な文章・・・という自分をどこかに埋めてきたくなりました・・・(-_-;)。

じわじわと入れ替わっている彼岸と此岸。紛れ込んでしまう主人公。とても良かったです!
水無月・R的今年のベスト3に入りそうな作品です〜!
水無月・R
2008/11/19 23:32
トラバありがとうございました!返させていただきます
もう〜毎日馬車馬のように働いて疲れ気味の空蝉です。たまにはこういう幽〜な世界に浸りたいです。 私の中ではこれはもちろんのこと、恒川光一郎『夜市』が歴代(国内)ベスト3に入ります。ああ、でも京極は抜かして、ですが(笑)
空蝉
2008/11/20 08:54

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