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zoom RSS 『みなさん、さようなら』 by 久保寺健彦

<<   作成日時 : 2008/06/13 12:44   >>

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「ひきこもり」という病気がある。いまさら説明するまでも無い、その病気は知っている、そう思っている人がほとんどだろう。
病名を与えて可愛そうと哀れむことも非社会的と非難することも、外側にいる多数派からすれば簡単だ。
外の世界からいわゆる「一般常識」の生活価値基準でもって彼らを見たとき、彼ら「ひきこもり」は狭い閉塞社会の中に生きる井の中の蛙とされる。未だ未開の地に住む少数民族を物珍しい生き物を見るような目で見、どこかあざけり哀れむ。
人は前人未踏の地と知に興味を持って踏み込むことで進化し、世界を広げ、発展してきた。あるところから無いところに移動させ、無いものは生産し、いらないものはごみとした消費社会が今のこの世の中の鉄則だ。
ではその逆は? あるものだけで充足させ、一定の世界だけで完結させ、必要とあれば外部を取り入れる・・・これはまさに少数民族に多く見られる生態ではなかろうか?
人類学や民族学を少しかじった私は一般よりは多種多様な民族の歴史と実態を見てきたつもりだ。
彼らの中には移動をせず一箇所に定住し、同一民族の中だけで衣食住、すべてを完結させるものが少なくない。無論、外部と交配し血を取り入れ、商売や物々交換という「交易」で外の世界を取り入れることは欠かせない。しかし彼らは必要最低限の縄張りの中で見事に力強く生き抜いている。そんな逞しさを、本書に感じた。

ただしこちらの舞台は普通の団地。主人公も目の前で起きた殺傷事件のトラウマで団地から一歩踏み出すことが出来なくなってしまった少年の青春18年間を描き、彼が母の死をもって再び外の・・・こちらの世界に復帰するまでの物語である。

団地という閉塞した中で彼は必死にその世界を守ろうとした。いや、団地をというよりは自分を、なのだろう。
日々肉体の鍛錬を欠かさず、ケーキ屋として成長し、恋も婚約も別れも経験したが・・・彼に決定的に足りないものがひとつある。「出会い」だ。 
本書の目次を見ればその意味がすぐにわかるだろう。カウントダウンするように、団地の中からはこちらの世界での友達(つまり小学生の同級生たち)がひとり、また一人と減っていく。どんなに親しかった友人も、愛し合った恋人も、手に職をつけてくれた師匠も、尊敬していたヒーローの偶像も・・・最後にとうとう独りになった彼のもとから、母親が死ぬ。
すべて自分ひとりで何とかしてきた彼が、結局最後まで克服できなかったのが、別れの寂寥とそれを生めることが出来ない空白のスペースだ。散骨をしてほしいという母の願いがこもった遺骨を手に、とうとう外の世界へと踏み出した彼がどのような人生を歩むかはかかれていない・・・が、苦労することは想像に難くない。世の中そんなに甘くないのだ。
だが、そんなことはどうでもいい。本書の面白みは団地という素朴な環境の中で、一人の少年がひたすら単純に、積極的に生き抜いているということだ。
閉塞的社会の中で積極的に、というのは不思議かもしれない・・・が、それがすんなり読めるのは彼の性格もまた単純で素朴で懸命だからだろう。
本書は閉塞社会の中で生きることがいいとも悪いとも結論づけていない。彼が最後にとった行動は、世界に興味がわいたからでも、開拓精神でもないだろう。きっと、その原動力は寂しさだ。
人は一人では生きてはいけない。限界があればそれを乗り越えることが必要となる、その限界がいつどこで目の前に突きつけられるかはわからないが、いつか必ず訪れる限界がある。
その時、外の世界に出て行くかどうかはその人次第・・・けれど、きっといつかはそうした契機が訪れるのだろう。
みな、この世界にすんでいるのだから。
こんなにもたやすく、かならず繋がっているのだから。


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