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zoom RSS 『閉鎖病棟』 by 帚木 蓬生

<<   作成日時 : 2008/09/16 17:16   >>

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臭いものに蓋、という便利な言葉が日本には、ある。コレが比較的密閉されてきた歴史を持つ島国特有の知恵なのか、君子危きに近寄らず・・・という逃げ腰の民族性なのか、その辺りは論議するつもりは無いが、海の向こうの戦争も、地球の裏側で続く飢餓も、ブラウン管を通して(いや、今はネットか)見る映像に顔をしかめ、安全な此方側で、身内仲間、同意見の内々で好き勝手な口上を垂れるこの集団心理は、日本に限ったことではなく人間の「保身」と言う名の本能なのかもしれない。
異質なもの、制御できぬもの、理解不能なものを排除し隔離し、時には槍玉にすら挙げて逃げるspmp集団心理は社会という組織集団を維持していくために必要な措置ですらあるのだろう。
そうして出来上がる一方的絶対多数の声はやがて、世論や世間の常識という形の無い枠組みを作り出し法律や罰則と言う名で構築された隔離地を生み出す。名を変え場所を変え、行いが外れているものには牢獄を、心が壊れているものには病院と言う名の「閉鎖病棟」を、社会は彼らに与えたのだ。

最初、本書『閉鎖病棟』を読んだ際に思い出したのは、昔読んだ作品『漆黒の王子』だ。
こちら側の世界からカットアウトされた廃墟地下世界に住む「彼ら」は、その暗闇の中で確かに生きていた。完全に切り離されその損時すら忘れ去られたもう1つの世界が、私たちの知らないところで確かに存在する。カットアウトされた世界・・・いや、スピンオフされたその小さな空間で、彼ら被排除者らの世界と社会が必ず構築されていくのだ。それが人間である限り。人間が群れを成す弱い人間である限り。人が人と出会い人のために生き、人に必要とされることでいき続けられる生き物である限り。

本書に戻ろう。
その閉鎖病棟には過去に凶悪な傷害事件などを起こした所謂精神病と診断される「病人」たちが「収容」されている。
開放病棟、準開放病棟、閉鎖病棟などランクはあるが、そこに住まう彼らの小さな世界と生活とが公正かつ冷静な目で描かれていく。十数人に満たないその「病人」たちと看護士たち、そして彼らの家族が登場人物の全てでありきわめて狭い舞台でありながら、その意味するところは深く広い。10年一昔と言うが、10年たった今でも多数読まれ続けているのは、その過去の小さな社会が、現在の私たちの生きるこの世界そのものとなんら変わることの無い社会を築いているからに他ならない。

親を殺したもの、子を殺めたもの、放火したもの・・・精神病という名の隔離でもって生かされていた彼らは個々の人間としての存在を忘れ去られ精神病患者という名でひとくくりされている。これは排除もしくは差別と言う社会の保身システムに伴う性質である。
それでも、人間は強い。人と出会い関わり生を交流させていき、人と人との間にたくさんの時間が流れることでそこには必ず社会が生まれる。暖かな、力強い、確かな歴史が、この「閉鎖病棟」のなかにはある。
かつてひとから命を奪い、全てを奪われ何も持たない彼らが、この隔離された小さな世界で出会い喜びも悲しみも分かち合い・・・やがて人を生かし、死んだものを弔い、よりたくさんの交流を求めるまでになる。
人は弱い、しかしその弱さの分だけ人のために強くもなれる。

病院はついの棲家ではありません。わたりに疲れた鳥たちが羽根を休める杜でしかないのです。・・・どんなに辛くとも、いずれ翔び発って自分の巣に帰って欲しいのです。

仲間の生を救うために、また一人殺してしまった秀丸が親友ともいえるチュウさんに宛てた手紙である。
そしてその裁判の中、チュウさんは大声で答えた。「秀丸さん、退院したよ」。彼の言葉が30年以上にわたる病院生活に終止符を打ったのだ。そして鳥たちはこの世界に羽ばたいていくのだろう。

彼らの羽ばたいたこの広い世界になに不自由なく生きる私たちは、果たして本当の意味で「翔んで」いるのだろうか?
この広い空間をもてあまし、広い世界の中に小さな閉鎖空間を築いてはいないだろうか?
私はもしかしたらようやく、この私を取り巻く硬い殻を認識できたのかもしれない。



閉鎖病棟 (新潮文庫)
新潮社
帚木 蓬生

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