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zoom RSS 『おそろし 三島屋変調百物語事始』 by 宮部みゆき

<<   作成日時 : 2008/10/27 11:52   >>

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袋物屋として名の知れるようになった江戸は神田の三島屋。
主・伊兵衛と妻・お民のもとに姪に当たる17の娘・おちかが行儀見習いをかねた奉公に上がった。が、おちかには「人」というもの全てが恐ろしく、人を避け外界との交わりを拒み、そうさせるだけの暗く痛ましい過去に捕らわれていた。
ところが伊兵衛の計らいで「黒白の間」があてがわれ、訪れる客の不可思議な物語をきくはめになる。彼らの語る物語はまさに百物語、それも聞き手であるおちか自身が背負う過去と同じ、愛憎半ばする、あまりに愛するが故に犯してしまった過ちの悲しく痛く切なく・・・苦しい物語である。

多くの人は悲しみや苦しみを抱え、押しつぶされそうに成ると助けと救いを外に求めてしまう。
誰か話を聞いてくれ、誰か私を救い出してくれ、ここから連れ出して、誰かこの苦しみを代わりに負ってくれ・・・
自分の中で全てを浄化できる人間は、今も昔もきっと少ない。
悲しみは心を閉ざさせ、苦しみは目を曇らせ、辛い思い出はその過去も今も自分自身すらも押しつぶしてしまう。
あまりに重すぎる思いは人の心を一所に押しとどめ離れられなくしてしまう、そんな彼らを人は地縛霊、などと呼ぶのかもしれない。本書にも登場する人食い家は、そうした暗く悲しい、恨み辛みを抱え込んで動くことすらかなわなくなった吹き溜まりの具現化したものなのだろう。
以前、お化け屋敷について考察を述べた論文を読んだことがある。
西洋のお化け屋敷(ホーンテッドハウス)は家そのものが人を襲う。無論そのきっかけや陰惨な過去を迎えた城主やら家主やらの思い出はあるのだろうが、多くの場合無差別に侵入者を襲い、文字通り食ってしまう。あの堅固な石の造りで出来た家や城は外と内との境界が明らかに隔絶させており、「一度入ったら出られない」その現象はまさしく物理的なモノによって阻まれる。もしかしたらそれは迷宮が発達した西欧文化によるものなのかもしれない。
が、比べて日本のお化け屋敷(もちろん昔の木造建築、茅葺屋根の頃を指していうのだけれど)は出入りが妙に単純である。障子一枚、襖一枚隔てた先で怪異は起こり、物理的というより心理的な恐怖に呼びかける。そこで語られるのは「幽霊」の個々人の極めて個人的な恨み辛みであり恨まれる側が存在する(した)設定であり、彼らは八つ当たり、というよりはむしろ聞いてくれ解ってくれ慰めてくれといわんばかりのすがりようである。
そう、日本の幽霊は、すがってくるのだ。ヤブカラボウに巻き込むのではなく、話を聞いてくれそうな人を、同情してくれる優しい人を引っ掛けては連れて行く。一人は寂しい、こっちに来てよ・・・話を聞いて、わかって頂戴・・・と。

話を戻そう。
おちかの周りに集まる話は皆、抱え込まれて浄化することが出来ずに燻っている悲しみだ。
いってみれば、彼らは話してスッキリした、という至極単純な解決方法を求めているだけかもしれない。
いいたいことをいえばすっきりするよ、悲しいことがあるなら言っちゃえば楽になるよ、愚痴なら聞いてあげるよ・・・など等、
私たちはよく口にする。もちろんこの世には複雑な関係も出来事も五万とあるし、そんな単純なことばかりではないことも解っている。けれど心のうちをわかってもらうということ、解ってあげるということも口で言うほど単純な作業ではないのだと、忘れてはならない。
この物語でおちかという一人の少女は命がけで人の話を聞いた。己の過去に向き合った。逃げて、閉じ込めて、しまっておいた燻る過去を、かみ締め、話し、聞いてもらうことで浄化されるのだと懸命に訴えている。彼女もまた戦っているのだ。
話を聞く。それは単純な作業かもしれない。
だけど本当に「話を聞く」ということはどういうことなのか、もう一度振り返ってみよう。考えてみよう。
話を聞く、それは人一人の持つ物語、つまりは人生の一部分を小さな窓口からつむぎだされた「お話し」によって共有するという非常に難易度の高い技なのだ。
話す、それはとても簡単なこと。聞く、それもまた簡単な動作。
けれど全てを正確に包み隠さず話し、全てを確実に受け留めそっくりそのまま理解してあげるということはきっと不可能に近い。話す側も聞く側も違う人間なのだからそれはきっと永遠にかなわない悲願なのだ。
でもだからこそ私たちは少しでもその願いを叶えんと、話さなくてはいけない。聞かなくてはいけない。自分の心に、人の心に耳を傾けなくてはいけない。



おそろし 三島屋変調百物語事始
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宮部 みゆき

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