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zoom RSS 『モダンタイムス』 伊坂幸太郎

<<   作成日時 : 2009/01/30 09:16   >>

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ああ、すごいとやはり思う。繰り返されるフレーズ、どこかで見たような(読んだような)掛け合い、耳に(目に)したことのある言葉とシーン。「あれ?さっきも確かこんなシーンが・・・」と思うようなデジャヴをところどころに感じ、何度も何度も同じようなフレーズやシーンが繰り返される。そして気づくのだ。ああ、この既視感、等身大のタイムリーな感覚こそが伊坂作品に共通する引き込みの魔力、臨揚感なのだと。
「どこかで・・・したことある表現」は作品の中に登場したモノであるにもかかわらず、いつしかリアルな己の体験と錯覚し私たちはいつの間にか作中の世界の住人になっている。たしかに伊坂作品の多くは現実の世界観から大きく外れることはない。本作品も近未来が舞台ではあるが現状の世界の延長線上にあるていどであり、SFにみるほど劇的な変化は見られない。
けれど、やはりそれだけではないのだろう。超能力なんていう突拍子のないモノすらも登場しているのだから。
リアルに存在する音楽や映画(それこそモダンタイムスも!)、リアルな歴史に伊坂作品での作中リアルがミックスされ、読者はなんなくその世界に引き込まれている。無理のないバーチャルへの没頭。これぞミステリーの醍醐味だ。

さて内容に移ろう。
『ゴールデンスランバー』と平行して執筆していたということ、また『魔王』の続編(というか、登場人物のその後)にあたるためどうしても内容なり話の中核となる部分が被る。当たり前の日々に突如動き出す流れ、圧力権力、得体の知れない大きな力、それらが「必然」という断定的な存在として存在してしまっている目の前の世界に「?」マークを投げかける、ほんの一部のちいさな存在がこれらの物語の主人公たちだ。
彼らはいわゆる無法者、例外、システムに組み込みきれない規格外的な存在であり、ほんの小さな「?」がやがてその大きな絶対的流れの根本に居る存在までたどり着き、対決し、其々のラストを迎える。

『魔王』では本書にて既にそのカリスマ性を持って時代を制した歴史的人物・故犬養に対峙し果てた超能力者・安藤(兄)、『ゴールデンスランバー』では何か大きな流れによって国家的犯罪者に祭り上げられ、「逃亡者」よろしく逃げ切ることで勝利した一人の男、そして本書『モダンタイムス』では頼りない能力の片鱗と仲間と恐妻とに揉まれながら国家というシステムそのもの、いや、人間の歴史・進化のシステムの流れそのものに「見て見ぬ不利をしないで立ち向かう方法」を「考え」だした安藤の子孫・渡辺というサラリーマン(正確にはSE)のお話である。

なにかとてつもなく大きなモノに取り込まれた世界と、その世界でゆうゆうと何気なく暮らしている大多数の人間と、それに疑問を持って「考え」だした彼らと。 案外それはどこにでもある現象で、いつでもどこでも繰り返される歴史の片隅なのかもしれない。
スケールは大きいが彼らが望むのはいつだって身近な大切な人と己の幸せと、目の前の何かをどうにかする、それだけのことだ。小さな目標のために生きているのではなく、もっと小さな目標、身近なもののために生きている。
彼らは革命もしないし歴史に名を残すような大それたことはしない、けれど彼らにとって私たち小市民にとって最大の勝利はそんな身近な目標をこなすただそれだけのことにある。そんなことを、伊坂作品の中にいつも思い起こされる。

物語は浮気を知った妻の依頼で暴力屋?に監禁拷問を受けている夫(主人公)渡辺の情けなくも憐れな姿に始まる。
SEである彼はある事件に関連する、もしくは全く関係のないいくつかのキーワードを検索すると検索者に不幸が降りかかることを知る。やがて彼の周りの者にもその危害が及び、「いろいろな偶然と必然」とを経てその根本的なものへと挑むことになる。
さて、ここで「いろいろな」と片付けてしまったがそこには重症を負ったものもく死んだものも、それこそ様々な出会いと別れも含まれている。いろいろ、さまざま。多くをたった4文字で表せる便利かつ簡素な言葉だ。
けれど本作にて思い知るだろう。
作中の小説家「井坂幸太郎」が語るとおり 省略されてしまう末端の部分、小さな他愛もない出来事にこそ心理が有り、当人にとって最も重要なことであったりするということを。
だから、読んで欲しい。ここでは語りきれないさまざまなこと、いろいろなことを貴方自身の目で読み取って欲しいから。


モダンタイムス (Morning NOVELS)
講談社
伊坂 幸太郎

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『モダンタイムス』/伊坂幸太郎 ○
うわぁ・・・。あと味、悪ぅ〜。この読後の胃にもたれる感じ、ぞわぞわする感じ、うう・・・ダメだぁ〜。 伊坂幸太郎さんの『魔王』の50年後を描く、『モダンタイムス』です。 あれから50年、国民投票で憲法は改正され、徴兵制が実施されたり、国民監視体制は更に巧妙になってきている。 システムエンジニアの渡辺拓海がある日帰宅すると、妻の差し向けた拷問者がいた・・・。彼は「勇気はあるか?」と問いかける。 この物語の根底にあるのは、この問いかけのような気がする。登場人物に、読者に問いかける。 「... ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2009/01/30 20:52

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
今回は、伊坂さんらしい張り巡らされた伏線とか少なかったですね〜。ちょっと残念でした。
このまま、流されてはいけない、システムに組み込まれて人間性を失ってしまってはいけない、そういう警告を読者に投げかけていると感じました。
「勇気はあるか?」と問いかけられたら、空蝉さんならどうしますか・・・?
水無月・R
2009/01/30 21:23

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