■空蝉草紙■

アクセスカウンタ

zoom RSS 『茗荷谷の猫』 by 木内 昇

<<   作成日時 : 2009/04/15 12:37   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

画像

本郷、染井、巣鴨、茗荷谷・・・東京の下町を舞台に江戸時代から昭和まで100年余りの土地の記憶と言えばよいのだろうか。
そこに生まれた者、移り住んだ者、その生涯を全うした者・・・描かれる物語はどれもどこか物悲しく、不思議と奇妙な雰囲気と、ほんの少しのホラーが漂っているが、それは近くて遠い近世〜近現代という微妙な時代の雰囲気そのものであるように平成を生きる私には感じられる。
歴史の教科書や考古学、いわゆる「骨」になった物語ではないのだ。まだ腐り果てた肉がこびりつき、朧げに人の形を保った死体が土の合間からその姿を覗かせているかのようにとても微妙で、気持ちの悪い位置なのだ、この時代は。
江戸時代を描いた章はともかく、中盤以降、おそらくリアルタイムにその時代に存在してきた人がまだ生きている。
だからなのだろう、どこか彼らの姿がぼんやりと見えてしまうのは。
だからなのだろう、幽霊を見たときのようにうっすらと判然としない物語の曖昧さに気持ち悪さを感じてしまうのは。
今は昔の物語から、過去のモノとも今のモノとも割り切ることが出来ない中途半端な「少し前の」物語にまで段々と近づいてくるこの9編の物語は、読むものにとって「馴染む」物語であると同時にカウントダウンされているかのような気分にもなるのだ。

時代は違えどその地その家に生きた人々は皆全く違う人生を送りそこに生きたという点以外には接点は何もないけれど、そこここで登場し話の端々に見え隠れする「その章以前に描かれた人々」の足跡が確かにある。
私たちの記憶には残らずとも身体の遺伝子に、組織にその父母、そのまた父母・・・すべての先祖の血が息づいているように、この東京の地にここに生きたすべての人々の歴史が染み付いている。
だから私は、本書が短編集であると同時にこの地を主人公にした記憶と歴史の物語であると言いたい。

新種の桜に傾倒し後世に残る「染井吉野」を生み出した男は妻を亡くし、この世に留めることの出来ない人の生を嘆く。
どの章でもその主人公たちは、漠然と「絶対だ」「永遠だ」と思っていた、そう信じていた存在や信条を失っている。
-失う-、しかしそれは単に喪失してしまうということではなく、逃げられない非情な「現実」を背負ってしまうということである。

「自分がいつしか背負ってしまった現実」  ・・・『てのひら』より

それは人の死であったり、貧困であったり、己の死であったり戦争であったり、社会というシステムそのものであったり・・・
と人それぞれに背負うものは違うのだろうが、それらはすべて現実から押し付けられるようにじわじわと人の人生に食い込んでくる。
人はいつしか取り戻すことが出来ない現実を、流れ続ける時間を認識し、その非情さに涙する。
その事実は時に哀しく、時にありがたく、時に寂しい。

この物語も私たちも。これから、もしくは既に背負ってしまった現実に救いは見出せないのかもしれない。
けれどそこには逃げ場はない。そしてそれらは必ずしも苦悩だけではないはずだ。
今までも、今も、これからも、 そこに生きた人々の形跡は確かに語り継がれているのだから。
確かにそこでそれらを背負い、生きた人々がいるのだから。

そして私もいつか、後世の誰かが私の生きた証を、例えばこんな書評の一篇でも、見かけてくれるのかもしれない。

新種の桜造りに心傾ける植木職人、乱歩に惹かれ、世間から逃れ続ける四十男、開戦前の浅草で新しい映画を夢見る青年――。幕末の江戸から昭和の東京を舞台に、百年の時を超えて、名もなき9人の夢や挫折が交錯し、廻り合う。切なくも不思議な連作物語集。
内容(「BOOK」データベースより)



茗荷谷の猫
平凡社
木内 昇

ユーザレビュー:
あなたの足下にも未知 ...
見えない糸が紡がれて ...
ままならぬこと、それ ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
茗荷谷の猫<木内昇>−(本:2009年42冊目)−
茗荷谷の猫クチコミを見る ...続きを見る
デコ親父はいつも減量中
2009/04/25 19:22

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『茗荷谷の猫』 by 木内 昇 ■空蝉草紙■/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる