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zoom RSS 『太陽の坐る場所』 by 辻村深月

<<   作成日時 : 2009/05/08 13:40   >>

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偶然だけれど、私と著者とは同年当月、1980年2月生まれだ。本書を手に取ったのも28歳、著者とも登場する「彼女たち」とも同じ年だった。だからというわけではないけれど、とてもリアルタイムに、親近感を持って・・・いや、生々しく彼女たちの痛々しさが感じられる。
出席番号22.1.27.2.17.の女子と「太陽」と、28歳となって同窓会を迎えている彼女たちと、彼女たちを取り巻く男たちの思いと過去とが交錯して物語は進行する。各章ごとに割り当てられた出席番号の「彼女」の視点から語られる物語は同じ物語を見つめながらも見えているものは決して同じではないことが解る。
事実は一つ、しかし真実は人の数だけ存在する。きっとそういうことなのだ。
女優として華やかに活躍しているとはいえ一度もクラス会に顔を出さないキョウコを、かつての同級生たちが様々な思いを秘めつつ、引きずり出そうとする。様々な誤解と思い込みと、プライドや傷を抱えながらもその想いを深く閉じ込めてきた彼女たちの心が交錯し、クラスメイトであったあの時へ、過去へとさかのぼる。
そして28歳、大人になった今でも「あの時」の想いに縛られ続けていることに気付くのだ。

響子という女王の栄華必衰の物語が口々に語られ、彼女たちは其々の思いを抱いたまま生きてきた。
かつて太陽神アマテラスが天岩戸に篭り引きずり出してでもその恩恵を得ようとした人間たちのように、太陽を周る星々はいつだって自分が沈まないように、存在し続けるために必死なのだ。
私の少女時代にも、きっと貴方の少女時代にも存在していたであろうクラスの中心的人物「女王」。「太陽」。

女王・・・太陽への羨望、妬み、憧れ、嫉妬・・・プライドと虚勢とがかつて彼女たちをがんじがらめにし、彼女たちの心に扉を立てた。そして今も扉は閉ざされたまま、彼女たちは過去に囚われたまま生きている。
・・・扉は、天岩戸は、他でもない己の内にある。

けれど、彼女たちは太陽(アマテラス)ではない。太陽は外の影響を受けず誰にも縛られず何にも関与せず、いつでもドコでも己一人で輝きあり続けることが出来る存在なのだ。日本の神話、天岩戸に篭ったアマテラスのように。そして皮肉なことに、太陽自身はそのことを、きっと知らない。きっと太陽であることにも無自覚に無意識に輝いているのだろう。
太陽は己自身を語らない。太陽であることも、中心であることにすら主張せずして一人孤高に在り続ける。
だから、本書には彼女、太陽の視点では描かれていない。
私はあの頃も今も「太陽」ではないし、きっと著者も、大多数の読者もその周りを回る星でしかなかっただろう。そして太陽自身が無自覚であるとすれば、誰が「太陽の視点」を描けるであろう? 太陽の気持ちを語ることなど、出来ないのだ。

そこにミステリーの謎と鍵がある。
おそらく読者は、この物語がミステリーであることにすら後半まで気がつかない。
6人の彼女たちと、男たちと、5章の物語。太陽を除いた5人の「彼女」らの視点で描かれた一つの物語。
誰が太陽であったのか、女王の名は誰のものであったのか、事件も犯罪も起こらないこの物語だが、きっと読者はこのトリックにめまいを感じるだろう。

私はまだ一度も同窓会にもクラス会にも参加したことがない。
「欠席」に丸を付けて返信用ハガキを投函する、行かずに回を重ねる同窓会と年齢と、会わずに過ごした年月。
「キョウコ」という名で女優として大成しながらも欠席し続ける彼女と同じく、怖いのだ、私は。
既に出来上がったあの輪の中に踏み込んでいくだけの自身も、勇気もない。たとえ私が太陽でなくても、だ。

最終章にも在る、やはり扉は己の内にある。
誰の心にも。



太陽の坐る場所
文藝春秋
辻村 深月

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怖い!すごい迫力でし ...
一人でやってろ注目さ ...
本当に囚われているの ...
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