■空蝉草紙■

アクセスカウンタ

zoom RSS 『さよなら渓谷』 by 吉田修一

<<   作成日時 : 2009/06/23 11:52   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1

画像
今、新しく裁判員制度が導入され「人を人が裁くことは出来るか?」という疑問が投げかけられている。それはつまり人に罰を与えることが出来るのか?罪を償わせることが出来るのか?・・・ひいては加害者が被害者に謝罪し償うことで罪は赦されるものなのか?ということである。
人は生きていれば多かれ少なかれ罪を犯す。時には人生を狂わすほどの犯罪も。
時にはその罪を隠し、忘れ、怯え、嘆き、怒る。人の数だけ罪が生まれその種類も重さも千差万別だろうが、しかしその罪に対して、償いと許しと忘れることと、憎み続けることと、果たしてどれが「救い」となるのだろうか?
本書はある犯罪により人生を狂わされた女と、その罪を許されること無く引きずり続けた男との間に展開する罪と償いと再生の物語である。

物語は息子を殺害した母親の事件を追う記者・渡辺の取材に始まる。女は隣にすむ男・尾崎との関係を匂わせ、尾崎の妻は夫の浮気を証言し、尾崎本人はその嘘の証言を黙って認めたため、幼児殺害を尾崎が示唆したという容疑がかかる。なぜ尾崎は妻の偽証言を認め冤罪を受け容れるのか?
息子を殺した女。その女と自分の夫に肉体関係があったと嘘をついた女。反論もせずそのうそを認めた男。(本文185P)
記者・渡辺は尾崎が15年前に集団性的暴行事件を起していたこと、妻かなこが戸籍不明な上籍も入れていないことなどを突き止める一方、尾崎が暴行した女性・水谷夏美のその後の悲惨な人生と現在失踪していることを突き止める。
記録と伝聞だけのあやふやな被害者・夏美は、尾崎の報われぬ人生が明らかになるとともに、一人の女性として輪郭をなしていく・・・

勘の言い方は既に誰が夏美であるか、お分かりであろう。
事件後復学しても就職しても交際しても結婚しても、すべて「あの事件」によって貶められる不幸な人生を送った夏美は責められることのない安らかな場所と「許し」を求め続けてきた。
一方、尾崎は釈放後されてからは誰からも責められず罪悪感だけが取り残された人生を送り、罪を責められ謝罪し許されることを求め続けている。
そして偶然にも彼らは再会した。絶対に許すことの出来ないもっとも憎むべき人間が唯一己を責めることの出来ない人間であるという皮肉。そして罪を絶対に許さず責めてくれる人間が唯一己に許しを与えうる人間であるという絶望的なまでの希望。
愛憎半ばする、とはよく言ったものだがこれほど痛ましい関係を私は知らない。

「一緒に不幸になるって約束したんです。そう約束したから、一緒にいられたんです」と、渡辺に告白する尾崎。
「どうしても私は許せない。〜私は死にもしないし貴方の前から消えない。〜私はあなたを許したことになってしまうから」と尾崎に訴える夏美。



十数年という月日は、決して途方もなく長い歳月ではない。何かを十数年思い続けることなど、人間には簡単なことなのだ。
自分が十数年をくらしたのなら、間違いなく彼女の十数年もそこにあった。想像の中で彼女は事件を忘れ、再びスタートを切った人生を謳歌していた。謳歌しているはずだった。
自分をレイプした男と、その後一緒に暮らしている女がいるのだ。(本文195P)
「一緒に不幸になるって約束したんです。そう約束したから、一緒にいられたんです」
「どうしても私は許せない。〜私は死にもしないし貴方の前から消えない。〜私はあなたを許したことになってしまうから」


出版社 / 著者からの内容紹介
どこまでも不幸になるためだけに、私たちは一緒にいなくちゃいけない……。
きっかけは隣家で起こった幼児殺人事件だった。その偶然が、どこにでもいそうな若夫婦が抱えるとてつもない秘密を暴き出す。取材に訪れた記者が探り当てた、 15年前の"ある事件"。長い歳月を経て、"被害者"と"加害者"を結びつけた残酷すぎる真実とは――。『悪人』を超える純度で、人の心に潜む「業」に迫った長編小説。



さよなら渓谷
新潮社
吉田 修一

ユーザレビュー:
“被害者”と“加害者 ...
入り口まではご案内し ...
上質の火曜サスペンス ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時

初めまして!
遊びに来ました!
これからヨロシクお願いしま〜す<m(__)m>
ややちゃん
2009/06/23 12:03

コメントする help

ニックネーム
本 文
『さよなら渓谷』 by 吉田修一 ■空蝉草紙■/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる