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zoom RSS 『悼む人』 by 天童荒太

<<   作成日時 : 2009/07/27 13:01   >>

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悼む人と呼ばれる男がいる。彼は訪れ得る限りの日本全国の地を旅して廻り、全国不特定多数の「亡くなった場所」を訪れ、個人の縁者に「彼(彼女)が誰を愛し、誰に愛され、どう感謝されたか」をたずねて周るという。
名前は坂筑静人。彼が訪れる先々ではときに感謝され、歓迎され、時に偽善者とののしられ、拒絶され、しかし彼はただただ静かに流れる川のごとく静かに淡々と死者の生きていた証を心に刻み悼む旅を続ける。
彼はなぜこのような旅を続けるのか? 彼をただ死者を悼むだけの無謀な旅に駆り立てたのはなんだったのか?

悼む人となった彼の生い立ちこそは極普通の一般的なものだ。幼少期の愛する祖父の死は衝撃だったかもしれないがいつしか思い出として消化した。しかし普通の青春を謳歌し医療系の企業に勤め、仕事先のうちボランティア活動で小児病棟を受け持つうちに救えぬ命に消耗していく。同じ医療を目指す親友の死に衝撃を覚えつつも仕事に追われるうちその悲しみは薄れ行き、一周忌すら忘れてしまったという己の過失が引き金となっていよいよ彼は思いつめていく。
どれほど深くその人と関わろうと、どれだけ人から愛されようと、人は会わずにいれば疎遠になっていくし死んでしまえば自然と忘れ去ってしまう。命の価値は平等かもしれないが、だとしたらこの人を悼んだらあの人は悼まずにいてよいものか?どこまでその人を知れば悼みきることが出来るのか? その思いが家族を振り切ってまで彼を旅に出させた。
何年と旅を続けるうちに悼み続けるコツ・・・自分の中での線引きを獲得していった彼だが、仏の生まれ変わりとすら崇められていた男の悼み先で一人のワケアリな女性と出会う。彼女こそが彼に救われ愛し愛されていたと信じた妻であり、神仏の存在を否定する彼の狂気により夫殺しを強要された被害者であった。そして彼女の方には夫の首が付きまとうという・・・。

そもそも『悼む』とはどういう意味であろうか?辞書を引くと「いたむ(痛・傷)」と同源、人の死を悲しみ嘆く。と出てくる。
では悼むとは心の痛み、辛いこと、哀しい(悲しい)ことなのだろうか?

人間は生きている限り死が付き纏い、その可能性、程度の差はあれいつどこでどのように死ぬのか解らないひ弱な生き物だ。だから「私」は死にたくないともがき、愛する人に執着し、死なないで欲しいと切に願うのだが、死は非情なまでに必ず訪れ、いつしかその悲しみも記憶の中から徐々に消えていってしまう。
日々膨大な情報を新しく抱え込む記憶からは古いもの・薄いもの・遠いものから消えていき、日々新しい人々との出会いと別れを繰り返す私たちはそうすることでどうにか思いに折り合いをつけ、正気を保っていられるともいえる。
彼、悼む人が長く苦しい悼みの旅から学んでいったことはそうした「コツ」である。
このような感傷的な物語にたいしてノウハウ本でも紹介するかのような「コツ」などという言葉はそぐわないかも知れない。
しかし本書に一貫して流れるのは、まさにそのコツでありすべてにおける「線引き」なのである。

死を恐れ続けていては「杞憂」その文字通り萎縮して一歩も外に出ることすらままならない。
死と別れを悲しみ恐れ続けていては新たな出会いすら恐れてしまう。
己に出来ることと出来ないこと、己に縁があるのか無いのか、どこまで関係できるのか出来ぬのか。

生きていくうえで私たちは常に選択を迫られ、その選択に必要なのは境界・つまり線引きである。
どちらを選ぶこともできないとき、どちらも失いたくないとき、どこまで相手の中に入っていってよいのか迷うとき、
人は苦しみ悩み立ち止まる。立ち止まってどこにもいけなくなってしまう。

数々の死を悼み、経験を積み、そういった線引きを悟ってしまったかのような彼、「悼む人」ですら、衝撃的な事情をもつ殺人事件を女の中に見てやはり心を乱す。
人間がいつか死ぬという絶対的運命を抱えている限りその事実に折り合いをつけていかなくてはならない。
人と出会いふれあい親交を深めれば深めるほど別れは悲しく、裏切りに身を裂かれることもある。

けれど、それは悲しいことだとはけしておもわない。
人がこだわりや執着に苦悩するということ、それは人が誰かを愛して止まない動物であるという証拠だと思うからだ。


悼む人
文藝春秋
天童 荒太

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