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zoom RSS 『ムーンレディの記憶』 by E.L. カニグズバーグ

<<   作成日時 : 2009/08/08 21:07   >>

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夏、フロリダ州のスクールに転校してきた少年アメディオは同スクールの少年ウィリアムと知り合う。彼の母は家財処分屋であり、アメディオとウィリアムは今回の仕事先、近所の大邸宅に一人で住む老女ゼンダーさんの引越しと家財処分を手伝うことになるのだが、このゼンダーさんがなかなかの変わり者。かつては財産も夫もオペラ歌手としての地位名声も持っていたアイーダ・リリー・タルは今や荒れた邸宅に住む世間ズレした孤独な老婆に過ぎず、近所の悪評を避けるため高齢者向共同住宅?に移り住むことになったのだ。
個性豊かな少年二人と老婆がどうにか仲良く?仕事を進めていくうちに一枚の古いヌード画がみつかる。絵の題名は「ムーンレディ」。この線描画を描いたのは世界的に有名な画家モディリアーニらしい。
非常に価値のあるこの絵が、なぜこんなところに誰の目にも触れず知られず埋もれていたのか。そして今これが発見されたことにどんな意味があるのか。

物語としてはこの絵『ムーンレディ』がゼンダーさんの家から少年たちによって見つけられた現代と、それがゼンダーさん(アイーダ・リリー・タル)の結婚祝いとしてこの邸宅に入った過去のいきさつに大きく分かれる。
さらに言えば現代は、少年アメディオとウィリアムとゼンダーさんの交流シーン、及びかつて退廃芸術展を主催したピーターと母の物語に。
過去はアイーダ・リリー・タルと絵とのいきさつ、及び絵にまつわる一人の青年の悲劇に分かれる。

これらの物語と時間とを結び付けているのがこのモディリアーニの線描画『ムーンレディ』だ。ピーターにより語られるナチスドイツ(ヒトラー)の行った退廃芸術破壊活動の事実は、このヌード画『ムーンレディ』をはじめ宗教画、ユダヤ人画家、同性愛者ほか数多くの芸術が迫害された事実を明らかにし、それがすべての物語をつなげていくのだ。

ただ、4つの物語はミステリーの謎解きのように最終章で一つに集約していくのだが、アメディオは100%の発見も理解もありはしないということを知ってしまったのではないだろうか。
彼アメディオは引っ越すことによって諦めかけていた「発見されて始めて行方不明だったことにみんなが気付く、そんなものを発見」するという、「一番の夢」を実現した。しかし彼は思いもよらないそれ以上の事実と歴史と悲劇までも知り、その「発見」のなかにけしてなくなることのない見えない部分という10%を知り、人は100%を知ることは永遠に出来ないのだということを知ることになる。

「人の90%は目に見えない。人間というものはもっと見えているつもりかもしれないけれど、10%しか見えていないの。」

例えば私。
本書に登場する、ナチスによる退廃芸術と冠された芸術家たちの史的事実など歴史の教科書に載っている単語としてしか知らなかった。情報として知っているそれら10%の表層に対して、残る90%の、いやそれ以上の悲劇的事実を私は知らない。知らずに美術館で鑑賞しているだけの私にとって本作に叙述される歴史的事実は「発見」だったけれど、同時に想像も付かないほどの彼らの悲劇の数々を「知る」ことは出来ないのだということも思い知らされる。

そういった情報的なことだけではなく勿論心情的なこと人間関係にしたって同じこと。
親しい人がいればいるほど、大好きなものがあればあるほど、そんなことは認めたくない。当然のことだと解ってはいるけれどそれを自覚していたくはない。知れば知るほど知らないこと、知ることが出来ないことを思い知らされるという皮肉な事実。

けれど、そんな相反した思いが葛藤するからこそ、人間はより深く知ろうとする努力出来るのかもしれない、そう思いたい。
この物語はすべてそうした思いで覆われている。
最初から最後まで、この絵『ムーンレディ』にまつわる経緯とゼンダーさんの生涯と彼女に関わったいくつかの人生が明るみに出て一つの終結を見たあとでさえ、アメディオはやはり知ることの出来ない10%に囚われている。

知ることの出来ない10%。それがより相手を、事実を知ろうとするための余地であり遊びであり希望であることを私は願いたい。でなければ、あまりに哀しくあまりに寂しいではないか。あ


ムーンレディの記憶
岩波書店
E.L. カニグズバーグ

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