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zoom RSS 『鬼の跫音』 by 道尾秀介

<<   作成日時 : 2009/08/15 23:23   >>

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時には心理的な、時には民俗的な長編ミステリーで人気を集めてきた道尾氏の初の短編集である。
ミステリと言えばミステリかもしれない、ホラーといえばホラーかもしれない。
どの章も日常がズルズルと猟奇的な事件に発展し、正気を保っていた彼らはいつの間にか己の中の狂気に飲み込まれ、やがて作品全体が読者を恐怖で震撼させる。

第一章<鈴虫>
かつての妻の恋人で私の友人であった「S」の遺体が大雨で流れた土中から発見された。ともに出土した所持品から事情聴取を受ける「私」は死んでいた彼を埋めただけだと主張し、彼はそうすることで彼女を自分のモノにした、はずだった。では殺したのは、誰なのか?

第二章<ケモノ>
出来の良いエリート家系の中でただ一人落ちこぼれ、嘲りのなか劣等感に苛まれる「僕」。ある日刑務所作業製品の椅子に隠すようにして刻まれたメッセージを偶然見つけた僕はその彫り主の過去を辿るうち、43年前に起こった猟奇殺人を探り当てる。その惨殺された一家は「僕」と全く同じ家族構成、そして屍と犬とケモノで出来ていたその家族に起こった悲劇を目の当たりにし、僕は一つの行動に至る。

第三章<よいぎつね>
故郷の神社の伝統芸能「よい狐」を取材するうちに学生の頃友人にそそのかされて犯して強い待った過ちが蘇る。通りがかりの女を神輿蔵に引摺り込み強姦したという罪悪感はやがて私に忘れていた記憶と新たな記憶を錯乱させる。殺したのは誰なのか?殺されたのは誰なのか?

第四章<箱詰めの文字>
盗んだ貯金箱と中に入っていた紙片を手に謝罪に訪れた青年。私は貯金箱には覚えが無かったが、その紙片の上の文字「残念だ」。そこにはミステリ作家としてデビューした当時の忌まわしい過去と罪をがこめられていることを私は知っている。
彼は何者なのか?なぜ私の元を訪れたのか?鏡に映る彼の顔を、私の顔を私は見ることが出来ない・・・。

第五章<冬の鬼>
1/8から1日ずつ遡っていく私の日記には、生まれ変わった私と恋人Sとの幸せな時間が綴られていく。そして最後の1/1の日記には前日大晦日に行われたSの手術と、ダルマへの「目」入れと、唯一つだけ叶った真実と願いが明かされる。

第六章<悪意の顔>
友人だったSからイジメを受けるようになった「僕」は見知らぬ女性の「助けてあげる」という言葉に惹かれ彼女の家に赴いた。画家だった夫と子供をキャンバスの中に取り込まれてしまい、彼らのもと(絵の中)に入ろうとした結果足を失ったという狂信的な彼女の言葉。しかし僕は彼女の「ウソ」を利用してSを消すために彼女の家に連れ込んでいく。

どれも狂気に飲み込まれた物語だが、では狂気とはなにか。狂うというのはなにか?
狂という字は第二章の標題「ケモノ」偏に王と書く。獣ではなく「ケモノ」、人間の理解を超え理性や常識や言葉も力も通じない別の世界の住人であるケモノ、その王と書いて、「狂」だ。
単純に言えば常識が通じなくなった人もしくは常識や現実を絶対多数の世間と同じ認識をできなくなった人の心理状態を狂うというのだろう。
友の死体とともに秘密を埋めた男、惨殺し変わり果てた家族の前に顔をうずめた青年、鏡を見ることが出来なくなった男、唯一つの真実に生きる愛し合う男女、この世のすべてを捨ててキャンバスの中の幸せに身を投じた孤独な女・・・

彼らの起した行動は世間一般からは「異常」といわれる行動であり、猟奇的行動そのものだ。しかし彼らにとってはそれが己を生かす唯一の方法で、そうすることが彼らの中では既に「普通」であったに違いない。
狂うということ、それは世間一般といわれる多数のヒトが共有する規律や常識から外れるということ、ヒトを捨てケモノになるということだ。猟奇殺人も、異常行動も、錯乱状態も、そうした狂っていると一般に思われる挙動は「ケモノ」にとっては常識で、彼らにとっての規律にかなっているのかもしれない。

「私たちの心は、壊れてなんかいない」

光を捨て、世界を捨てて唯一の真実を恋人と獲得した彼らは、ヒトとしては狂っているのかもしれないが、
きっと、彼らケモノの世界では狂ってはいない、彼らの心は壊れてなんか、いない。



鬼の跫音
角川グループパブリッシング
道尾 秀介

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