■空蝉草紙■

アクセスカウンタ

zoom RSS 『ふちなしのかがみ』 by 辻村深月

<<   作成日時 : 2009/08/29 09:42   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像
子供の・・・いや、大人未満の心の様を如実に時として痛ましいほどリアルに書き出してきたミステリ作家・辻村がこの夏始めてホラーを手がけた。学校、学生、誰もが身近にある環境を舞台とし、誰もが知っているであろう学校の怪談話を土台に、辻村らしいミステリも散りばめられたなかなか好スタートのホラー短編集だ。

昔はどこにでもあったような古井戸も暗くジメジメした便所も電灯一つないくらい夜道もすっかり身を潜めてしまった今日、現代人にとって怖いのはオキマリパターンを完全無視した神出鬼没なお化け、いわゆる都市伝説的なものである。燦燦と輝く蛍光灯の下でも、明るい道路上でも、消臭抗菌の施されたトイレでも、ところかまわず襲い来るお化や超常現象は既に「怪談」らしさを失っているように思われる。(だから都市怪談ではなく都市「伝説」なのだろうか)
そんな中でもまだ昔らしさを残している場所がある。学生時代の学校、だ。

いまどきの子はそんな非科学的なもの・・・とはいっても、まだまだそうしたオカルトチックなものに惹かれて止まないお年頃の彼(女)たちは好きな子の話題や芸能ネタを教えあうノリで、「怖い話」に尾ひれ背びれを着けながら噂する。
トイレの花子さん、紫の鏡(本書でふちなしの鏡といっているものと同じか)、赤マント、テケテケ、コックリさんにエンジェル様、私にも思い当たる学校の怪談がいくつもある。例えばうちの学校はもともと墓地の上に建てられた・・・とか、そうした実際にはなかなかありえない怪談ネタをでっち上げてでも噂話に乗っけようとする。それほど私も彼女たちも「ドキドキハラハラ」に飢えていたのだ。そうしてある意味捏造さえされた怪談話はあっという間に盛り上がり、あっという間に次の話題の前に影を潜めていく、とても短命で貧弱で、魅力に溢れたアイドルだった。
そんな魅力的な怪談を前に、私たちはのめり込んでしまう。そう、きっと取り込まれる、とり憑かれるといった本来の被害的説明よりものめり込む、混濁していく、といった方がしっくり来る。

例えば
・本書表題作「ふちなしのかがみ」。ある条件を満たして深夜鏡を覗き込むと将来の自分の姿が映るというこれまたお決まりの心霊現象?がテーマだが、主人公の「少女」は鏡の中に見た好きな男の子と自分と娘の姿に夢中になっていく。 
・階段に現れるという変わった「花子さん」を自由研究の対称にしていた少女が死に、その死因を元同僚が話題するにつれ次第に現実が混濁していく先生。
・勢いついたブランコから落花して志望した少女が生前、エンジェル様によって急に人気をあげたことその変化が、友人たちの様々な視点から描かれていく。そして最後に語られたのは誰の視点であるのかがやはり混濁している。
・痴呆症の祖母を見舞いに訪れた田舎の家は散乱したゴミと死体の山で満ちていた。しかし彼らはなんの気なしにゴミと同様ネズミの死体のようなそれらを「片付けて」行く・・・彼らが片付けたのはなんだったのか?

どれも現実と非現実、此岸と彼岸が曖昧になっていく。時には自責の念、時には羨望や妬み、弱さなど彼女ら自身の心がそれらの現象にのめり込み、現実がやがて曖昧に混濁していくその過程は現代人にとって唯一残された「怖い話」なのかもしれない。なにしろこの明るい世界でありきたりの怪談話では、通じないのだ。

唯一趣を異にしているのは最後の作。
喘息もちのキョウスケのせいでクラスでの地位が転落してしまい孤立したシンジはとっさにカッコイイ中学生の親友「ゆうちゃん」を捏造する。しかし次第に嘘がばれるのが恐くなり天変地異を神社に願う。そんな彼の前に突然現実に現れた「ゆうちゃん」はいったい何者なのか?
これに関してはとても情緒的でドラマチックなほどの盛り上がりを後半見せてくれるので楽しみにして欲しい。
シンジとキョウスケという孤独や意地や見栄を抱えた幼稚な「少年」が、ひと夏の劇的な体験と大きな失ったものにより成長をとげていくその姿が見事に描かれている。

此れを除いては、どれもきいたことのある怪談話のネタではある。
著者自身あとがきに寄せているように、それらオカルトてきな話題は大人たちによって「そんなもの」と一蹴され、幼稚なものとして葬られてしまう儚くか弱いモノだ。大人になるということ、それは社会や世間にあわせ協調性を養い規格内に収まっていかなくてはならない、そういう悲しい成長をみにつけていくということでもある。
「そんなもの」そう片付けられてきた少年少女は、いつか大人になった時、今度は彼らの子供に同じことを言うのかもしれない。
とても儚くか弱い、しかし魅力に溢れた「怪談」は、それこそ少年が作り上げた「ゆうちゃん」そのものなのかもしれない。



ふちなしのかがみ
角川書店(角川グループパブリッシング)
辻村 深月

ユーザレビュー:
「トイレの花子さん」 ...
なつかしい、夏休みの ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『ふちなしのかがみ』 by 辻村深月 ■空蝉草紙■/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる