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zoom RSS 『枯骨の恋』幽BOOKS by 岡部えつ

<<   作成日時 : 2009/10/23 08:43   >>

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キャリアウーマン、晩婚、アラフォー(around40)、婚活などという女性を巡る言葉が次々と生み出されては消費されている今日、「女」という存在があらゆる意味で強く逞しくなっている気がする。
かつては社会的弱者であり求める男を待つしか出来ない受身側であった女という生き物は「怪談」というカテゴリにおいて、来ぬ想い人を憎み、もてはやされる同性を妬み、己の無力さを恨む同情すべきヒロインであった。
それが社会的立場が(かつてよりは)向上し、心情的にも「草食男子」に反比例するように強くなり、平均年齢は過去最高の女性86.歳を記録し男性よりも7歳近く長生きするという統計を出している。(男性79.29歳厚労省-時事通信)
それだけ女性は強くなったのだ。

前フリが長くなってしまったが、表題作『枯骨の恋』の主人公・真千子は40前の独身女性、まさしくそのアラフォーである。
新しい恋を求めることも捨て去ることも出来ない心と、衰えが見え始めながらも生理的には枯れきれぬ身体をもて余す彼女の部屋には、今は亡きかつての恋人・博也の骸骨の幻影が立ち続けている。
骸骨が見え続けるのは拒食症で病んだ恋人を捨ててしに追いやったという負い目ともとれるが、むしろ彼女自身が20代の頃の恋人の骸骨つまり自分自身のいわゆる脂の乗り切った若い頃を捨てきれずにいるためだろう。
男を誘っては自室に連れ込み、明るいままの部屋で関係をもち、骸骨に男との痴態を晒し続けることでどうにか己の中で暴走するモノを満たし続ける・・・男を漁っては貪り、若き男(骸骨)に見られることで己を満たし、。ほとぼりが冷めては物言わぬ髑髏に独りただただ語りかける。文章に流されて何気なく読んでしまうが、中年女性が自室で独り、ぶつぶつと髑髏に話しかけるその姿は想像できるだけに恐ろしい。
物語は彼女が身体を満たすためだけにあったばかりの男を部屋に入れた初めての夜、自分を愛撫する男の顔を直視したところで終幕を迎える。

このほか30代〜40代を迎えた、様々な何かを諦めきれない女たちの様々な姿が描かれている。

親友といいつつも微妙な優劣が水面下で肥大した三人の女たち。音信不通になった親友の家を訪れた女はすべて失い狂気に陥った彼女を見る。(親指地蔵)
父に捨てられ妹と母親の世話に自由を持てず婚期すら逃してきた姉。母亡きあとも家をけっして手放さず「翼をください」と歌いつつスコップを手に庭にでる。あるものを埋めるために。(翼をください)
パワハラで自殺した同僚の死を知り彼女の実家を訪ねるが、母親は会社への提訴を拒否する。娘の骨を埋没しにかつて口減らしに妊婦を放ったという穴「アブレバチ」へと女を誘う。(アブレバチ)
偶然見つけた骨董喫茶で勘定を払わない神出鬼没の人々を女は見る。マダムによれば彼らは人でも幽霊でもない、骨董に憑いた持主の想いのビジョンであるという。その奥部屋でかつて愛用したフランス人形と離縁した父の名を呼ぶ自分にそっくりの女を見つける。(メモリイ)

どの女たちも何かに縛られ、何かを諦めきれず、だからと言って自分では前にも後ろにも進めず消化不良にもがいているように思われる。
劇的な恋を謳歌していた若さと恋人、仕事とキャリア、家族や古い慣習からの自由、母親や子供、姉妹などのしがらみからの解放・・・
今更求めるにはピークを過ぎた身体と心、かといってすべてを諦めるにはまだ未練の残るギリギリのライン、いわゆるアラフォーに差し掛かった彼女たちの姿は時に醜くもあるが、しかし哀しいほどに切ない。

時代が変わり女性というステイタスが変わり世界が変わろうとも、女はいつだって狂気を抱えた存在、理解を超えたものとしてホラーの中に描かれる。女がその狂気に溺れ周囲を飲み込み暴走する時、それは彼女たちが自分には手に入らないもの、失ってしまった何かを狂おしいほど求めているときだ。
怪異は夕暮れ時や橋などの「境界=境目」に出るという・・・。諦めることも追い続けることも出来ない境界に、彼女たちは生きているのかもしれない。

何かを求めるにも何かから解放されるにも、すでに遅しと諦めるには未練が残り、執着し続けるには心も体も及ばなくなる、非常にあやふやな「境界」に生きるアラフォーの彼女たち。
私ももうすぐその頃に差し掛かる。女であれば誰もがスパンを過ごさなくてはならない。
その時、私はどうやり過ごすのだろう?その時何を諦め、何を最後につかむことができるのだろう?
「彼女」が喫茶『メモリイ』であるものをようやく見つけたように私にも何かひとつ、大切なものが手に入ればいいと思う。たとえそれが恐怖であっても、だ。

内容紹介
女の部屋の何もない壁際には、捨てた男の骸骨が立っている。
あきらめきれもせず、かといって新たな野望を燃やせもしない中年独身女、真千子。彼女が独りで住まうアパートの部屋には、かつての恋人、博也の骸骨が立っている。
20代のいっときを共に暮らした博也は、真千子と別れて間もなく病死していた。骸骨は、男を捨て去った真千子のうしろめたさが見せる幻影なのだ。恋人ができると、真千子はその幻に痴態を晒して快感に酔い、そしてまた恋を失うと、もの言わぬ枯骨相手に問わず語りを繰返す。初めて愛情の持てない男を部屋に入れた夜、暗闇の中で真千子は、男の愛撫に博也の癖を見つける。今自分を陵辱しているのが何者なのか、明かりのついたとき、真千子はそれを見る。

内容(「BOOK」データベースより)
まもなく40になる独身の真千子が独りで住まうアパートの部屋の何もない壁には、捨てた恋人、博也の骸骨が立っている。かつて共に暮らした博也は、真千子と別れて間もなく病死。捨てたといううしろめたさが骸骨という幻影を生み続けているのだ。ある日、知り合ったばかりの男を初めて部屋に入れた夜、暗闇の中で男の愛撫に博也の癖を見つける。今、自分を陵辱しているのは何者なのか、明かりがついたとき、真千子が見たものは…。受賞作「枯骨の恋」ほか、30代から40代の女性たちの情念を描いた7つの物語。『ダ・ヴィンチ』『幽』主催第3回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞作。



枯骨の恋 (幽BOOKS)
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『枯骨の恋』/岡部えつ ○
部屋の片隅に、骸骨が立っている。主人公・真千子はそれを、15年前に別れ、そののち死んだ、自分の元恋人の骨なのだと思っている。 骨は何もせず、ただ立っているだけ。新しい男を連れ込んで、明かりをつけたまま関係しても、それでもなお。 第3回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞した、岡部えつさんの『枯骨の恋』は、そんな乾いたおぞましさを漂わせる、短編集である。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2009/10/23 23:34

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
私自身も、アラフォーと呼ばれる世代ですので、身につまされる部分もなくはないです。
ただ・・・平凡に平穏な日々を過ごすことが出来ているから、そちら側に行かないだけで。どこかの歯車がひとつずれたら・・・と、怖ろしくもおぞましくも感じました。
「メモリィ」に少しだけ救いを見たのも、同じですね。
水無月・R
2009/10/23 23:52

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