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zoom RSS 『ボトルネック』 by 米澤穂信

<<   作成日時 : 2010/03/08 14:16   >>

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非常に、非常に暗く、救いのない、痛ましい物語だった。
紹介欄を読むと死んだはずの姉が生きている別世界に飛んでしまった主人公の物語・・・これはパラレルワールドもの、そしてその世界で自分を見つめなおすようになる、いわゆる少年の成長物語かなと思って読み始めたのだが。
主人公はあらゆるものに冷め切って無関心を決め込んだ諦念タイプ。
正反対に好奇心旺盛で人好きのする姉の存在がなければ、この物語は進行せずにたちまち頓挫するであろう、そのくらい彼の行動には停滞と退歩はあっても進歩はない。

まず中学二年の冬、事故死した現場である東尋坊へ恋人ノゾミを弔いに来たその帰路、主人公である「僕」リョウは軽い眩暈と共に崖から転落した・・・。目が覚めると僕は金沢に戻っており、自宅にはサキと名乗る死んだはずの姉がいて、僕・リョウは存在すらしていない世界にいることがわかる。
僕の世界とサキの世界との「間違い探し」をしに街へ繰り出した姉弟だが、そこで見つかる違いは僕にとって残酷なものでしかなかった・・・

彼はその「違い」に自分と姉の価値の有り無しと、人や世界への有効性を見せ付けられ自分自身に失望していくわけだが、
本当の失望、いや、絶望は「違い」ではなく「共通点」にこそ隠れている。

両親の仲が「酷い状態」のまま兄もノゾミも死んだ僕の生まれた世界と、サキの存在一つで両親の仲もノゾミも兄も関係者の運命が皆、好転しているこちらの世界との格差を見せ付けられた僕に、追い討ちをかけるような衝撃的な事実が観察眼の鋭いサキから告げられる。
自虐的で他人にも友人にも両親にさえも無関心で冷めている僕。正反対に社交的で明るくおせっかいな姉・サキ。
それぞれ二人の性格に酷似してノゾミ。
自分たちと同じく「酷い状態」に悩み落ち込んでいたノゾミが彼らに会うことでそれぞれ真逆に変貌したわけだが、その変化こそが「共通点」であったことが彼に大きな絶望を与える。それはどういうことなのかは読んでいただくとして、これほど恥ずかしく、救いのない、憐れな結論はなかなかない。



できれば距離を取りたい相手に、やむを得ずぴたりとくっついている。全然そんなつもりじゃなかったのに、いつの間にか甘えている。・・・しかもそれでいて、あまり引け目も感じない。なるほど。家族のようだ。(p206)

間違っていたのは、サキが生まれてこなかったこと。嵯峨野家に生まれた二人目が、サキでなくてリョウだった、そのと自体。
三日間をかけてだんだんとわかってきた、この世界のパターン。それは、全て、どんな局面でも、ぼくの世界よりもサキの世界の方が良くなっているということ。
サキがなんでもないことのように享受しているのは、ぼくが永遠に失ったものばかり。
本当は、生まれてこなければ、良かったのに。

しかしそれにも増してむごいのは、ぼくがノゾミと過ごした時間の本当の意味を、サキが暴露してしまったこと。ぼくが過ごした平板な時間の中で、ノゾミを恋したことだけは唯一価値のあることだとおもっていたのに・・・・それは殆どグロテスクでさえあったとわかった。サキは言った。ノゾミは、あの日この公園を通りがかって話しかけてくれたひとを、模倣しているだけなのだと。それが正しいのだとすれば、ぼくが恋したノゾミはなんだったのか?
ーぼくが恋したのは、ぼくの鏡像だ。ぼくの思いは、そもそも恋ですらなかった。それは、ねじくれてゆがんだ、自己愛だった。






ボトルネック (新潮文庫)
新潮社
米澤 穂信

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