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zoom RSS 『あるキング』 by 伊坂幸太郎

<<   作成日時 : 2010/04/14 15:27   >>

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『魔王』辺りからどうにも政治色・権力や集団への社会批判とも取られがちな作風を帯びてきていた伊坂作品。
万人受けするエンタメ性が減りよりシリアスな、深刻な問題提起を孕んだ主題に読者層、ファン層もコアなものになってきたそんな折、追い討ちをかけるようにこうした異色作を打ち出した勇気にまず感服した。

物語は山田王求という天才野球児の生涯をつづったもの。そして同時に、圧倒的な天賦の才を持って生まれたカリスマ的「王」が周囲に、そして平民あふれる世界にどのような影響をもたらすのか?王の栄枯盛衰とはどのようなものかを象徴した物語である。

連敗続きのプロ野球団・仙醍キングスの熱狂的なファンである両親のもとに生まれた赤ん坊は、その瞬間から将来千醍キングスをしょって立つ「王」となるべく英才教育を受け育てられた。王として求められ王となるべく名づけられた彼の名は「王求(おうく)」。
彼の0歳、3歳、10歳・・・23歳、そして最終章へ。幼児期・少年期・青年期と年代を追うようにして物語は進行するのだが、幼少より天才的才能を発揮し周囲とは一線を画してきた王求はその才能ゆえ、様々な軋轢や諍い、不当な扱いや天才ゆえの孤独と直面し続ける。

様々な陰謀が渦巻く人間関係、野球球団という集団の中で天才は記録を更新し、周囲の期待と羨望の数だけ敵も増える。そして、王として求める人の数に反比例するようにして、彼、王は孤独になっていくのだ。

「王が求め、王に求められる」ように名づけられた彼の名、王求。

これは結局「王」のものがたりであって、一人の人間、彼自身の物語があまりに希薄であり、その意味で痛々しい。
きっと、一度頂点に立ったものは後は下るしか道はなく、周囲に抜きん出る、特別になるということは孤独になるということはどの世界でも変わらない。
出る杭は打たれる。しかし凡人は、それでも出る杭を求めるのだ。時に王として、時に生贄として、スケープゴートとして。
伊坂氏は本書に並々ならぬ覚悟と創作意欲をもって望んだことが様々なインタビューで伺われたが、根本的なモノは何一つぶれていない。
いわゆる「伊坂らしさ」やエンタメ性をこの作品に求めることは難しい。少年の成長ぶりに感動するとか、悲劇に涙するとか、そうした感傷的なものも、正直薄い。
物語のところどころに現れる3人の黒装束の女たちは最後まで何者であったのか明かされない。
『黒いオルフェ』という作品をご存知だろうか?あの映画のところどころに現れる死神のような男、あんな不穏な空気を挟み込む不気味な彼女らの影が、この作品を一層暗く悲劇的な結末を象徴しており、けっして明るいハッピーエンドの物語ではない。

しかし最終章、最後の最後の一文に、一縷の希望、光を見出すのではないだろうか?
パンドラの箱に最後に残った光のように。




あるキング
徳間書店
伊坂 幸太郎

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もし私が編集者だった ...
著者にこういう物語は ...
すぐ読める。薄い本だ ...
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『あるキング』/伊坂幸太郎 ○
本当の天才って・・・すごいけど、ここまで来ると全っ然、羨ましくないな・・・。 いつもの伊坂幸太郎さんの作風である、張り巡らされる緻密な伏線、そして見事に回収され収束するラスト・・・というのは、本作『あるキング』にはなかったな〜。まあ、伊坂さんご本人も、あとがきで雰囲気が違う小説って言ってらしたしね。 まあ、こういうのもありかな〜と思いつつ、主人公・山田王求は人生楽しかったのかしらん・・・と思わずにはいられない。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2010/04/14 22:30

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
最後の章で、私びっくりしちゃったんですよ。
語り手は、王求に語りかけてたのではないのではないか・・・と。
かなり驚きました。
複雑な伏線回収はなく、淡々と王求の野球人生が語られて行くのが、結構うすら寒かったです。
王求は、幸せだったんでしょうか・・・。
水無月・R
2010/04/15 22:43
こんにちは。
ですよね、最後の最後の文章、特に・・・やられました。
あの一言のためにこの作品はあったのかなって。
王求が幸せだったかどうか。それは解りかねます・・・王として「本望」であったのか、人として「幸福」だったのか、子供として「幸せ」だったのか?
何が幸せで何が不幸なのかこの世知辛い世の中で見つけがたい答えですが、それでも人は生まれてきます。私も生まれてきました。
そのことだけに光を見出したおもいです。
空蝉
2010/04/16 12:10

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