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zoom RSS 『こごえた背中の、とける夜』 by 沢木まひろ

<<   作成日時 : 2010/04/27 12:55   >>

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あ〜ああ、はまっちゃったよ・・・ BLモノは最近控えていたのに。しかもこれ、BLじゃないし!BOY&オヤジだし(笑)
でもおちゃらけずに読んで欲しい、感じて欲しい、泣いて欲しい。 
先日読んだ時も思ったのだけれど、たんなるボーイズラブとか同性愛モノとか、そんな単純な軽い言葉では片付けないで。愛する人を、出会った縁を、家族を、恋人を、真摯に真正面から見つめなおそうとする彼らの傷だらけの姿を。私は真摯に受けとめたい。 こんな軽い言葉ではいけないと思うのだけれど・・・ガンバレ、頑張って!と願わずにはいられないのだ。

男同士の・・・というと綺麗なお兄さん同士の恋愛劇を想像するが、その期待は大きく外される。
まず主人公は42歳、チビの中年男で時計職人をしているおじさん、早川野月。夏の雨の居合わせた野月が傘を貸しコトからずるずると関係を持つことになったのは、20歳の容姿端麗な青年、神谷蛍。
居付かれるままに関係を持ち心を通わせる二人のだが、当たらず触らず淡々と過ごす野月と、自由奔放で人懐こい蛍とは(外見もさることながら)かなり対照的だ。
野月は不釣合いかつ世間的非常識な関係であることを引け目を感じつつも、蛍と言葉を交わし触れ合ううちに様々な思いを気付かされる。
忘れていた父の思い出、知らなかった母の愛情、自分の思い込みと偏見と、逃げ続けてきた真実と彼を取り巻いてきた無味乾燥な世界。
そうした思いに心開きつつ平穏無事な日々を送る中、蛍は兄からの電話で呼び寄せられ、実家へと蛍を追いかけた野月はそこで衝撃的な事実を知る。
様々なことに気が付かされたくさんの言葉をもらったのに、肝心の蛍について何も知らなかったという事実。

「帰ろう。」 帰ろう。

彼らが最後に「帰ろう」といったその先がどこになるのか。 その「帰る場所」にて、物語は閉じる。

歳もタイプも家族も過去もまったく違う野月と蛍だけれど、これほど惹かれあっただけに共通しているものがある。
野月は父への、蛍は兄の固執と偏見だ。偏見というよりは固定観念、こびりついて離れない思い込みだろう。
人は弱い生き物だから、楽しい思い出かどうかは別として「自分にとって都合の良い」思い込みやすい思い出だけをお守りのように大事にしてしまう。 こうだと思い込んでいた過去が誤解や偏見で作り上げられたモノだと認めるのは、今の自分の足元を崩すということ。自分を一度否定して立て直さなくてはいけないという重労働・・・だから、どうしても億劫で、恐くて、踏み込む勇気をもてないのだ。曲名「偏見」という野月の着信音はどこかそれを象徴している。けれど野放しに育てられたと父・母の愛情を希薄に感じている野月は 蛍の言葉に何度となく気付かされる。

「笑い転げていた若い母。もっと驚かせてやるというようにぐるぐる回転した父。どうして忘れていたんだろう。」p75
「父が母を作業部屋に入れない理由・・・当然だ。あんな目を見せられるわけがない。見たいわけがない。俺だって見たくなかった。見たくなかったことに、初めて気が付いたのだ」p119
ことに3人の奇妙な京都旅行は大きなターニングポイントになる。
全てを知った上で息子を「お願い」した母親と蛍との会話に、野月は自分がどれほど母に心配をかけ愛されていたかということを初めて知る。

20だろうと40だろうと、人は死ぬまで人の子で、誰かの家族なのだ。
親のこどもに対する愛情は無償の愛だとよく言うけれど、それは子にその愛を気付かれようと気付かれまいと、たとえ理解されずとも否定されようともただ静かに愛するということなのかもしれない。
けれどほんの少しでもいい、「子」である私たちも彼ら「親」の愛に気付いていたいと、切に思う。
親の愛、それは多分生まれて初めて与えられる人としての愛だ。
けれど、「子」は大人になって誰か家族ではない「他人」を愛するようになり、その誰かと新しい「帰る家」を見つける。
そして愛することを知り、帰る家を見つけ、自分が愛されたこと、帰る家があったことをようやく知るのかも知れない。
野月のように。蛍のように。

「そう今。すごい勢いでいっぱい気付いている最中なの。・・・気付いた自分の方が断然いい」p83

蛍の言葉だ。
自分自身を含めて知らなかったことを知ること、思い込んでいたものを崩されることに臆病な野月は私自身でもある。親からの愛、そして蛍からの・・・恋人からの愛を受けるということは、時に重くて億劫で、負い目を感じてしまうから、
人は都合のいい偏見と楽な思い出に埋没してしまう。

地獄に身を置いて笑う女。優美に壊れていく男。かれらを心に負いながら自身を生きている蛍。p185

野月が蛍に惹かれたわけが解る気がする。蛍自身も逃げていたわけだけれど、それでも全てを背負って自身を生きる道を、帰る家を見つけた彼を、一読者としていとおしく思う。

知らなかった愛に、真実に気付いて受け容れるという重労働、それを後押しするのはやはり愛でしかないのかもしれない。


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