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zoom RSS 『流れる』 by 幸田文

<<   作成日時 : 2010/06/01 15:06   >>

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昭和32年初版・・・私が生まれる20余年も前に書かれた作品である。
戦前戦後の文章というのはどうしても硬い感じがするし話し言葉にも文語体が抜けきれず、なんとも不自然さがつきまとうもので、あの時代の文章になれていない私なんぞにはなかなか馴染めない。
まだ女流作家が少なかった時代、男性目線で描かれた女性の多くは「かくあるべき」姿で描かれた。
著者により定められた彼女らの心情は、彼女の態度や仕草、会話により間接的に伝えられることになる。
だからどうしても「彼女たち」はこの時代のドラマに沿った、わかりやすく都合の良い通り一遍等の女性像にカテゴライズできてしまう。

しかしいかな時代であれ、生きた人間が誰一人として同じような人生を送った訳がないだろう。
どうだろう?この生き生きとした人生劇場は!
幸田氏の「流れる」に描かれた女性たちの人生はどれ一つとしてつまらないものがない。
いまから半世紀も前の現実・・・しかも没落しつつある花柳界という、現代人にまるで縁のない世界が舞台になっているにも拘らず、なぜかするりとこの世界に馴染んでしまう。
それはきっと、「しろうと」である一人の女・梨花の目を通すことによって「くろうと」の世界を描いているからなのだろう。
梨花にとっても読者である私たちにとっても、芸者置屋の彼女たちの生活も世界も人間関係もすべてが未知の世界である。「どしろうと」である梨花が「くろうと」の世界に入りこみ、様々な体験を見聞きし、驚愕したり感心したり、時には負けじとこきおろしたりする。心のうちで。

なにより勝ち気で負けず嫌いな梨花の洞察力と吸収力は読んでいて気持ちがよい。
まず本書は梨花が芸者置屋に住み込みで女中をすることから始まる。
彼女の目や耳がそのまま私たちの目と耳になる。
しかも 花柳界の人間関係、社会、芸者たちの日常生活を、鋭い観察眼と肝の座った「しろうと」視点で感情のこもったコメントまでつけて実況中継をしてくれるのだ。
なんとも臨場感あふれる面白さである。

すこしだけ梨花のコメントを書き出そう。

「そういう美しさはさすがに花街である。しろうとの街にはないものである」
こう褒めちぎったかと思うとすぐそのあとに
「しかしこれでいくらするのだろう。安くないにきまっている。 こんなことぐらいは自分にだってできる」と値踏みし、玄人の美しさ、つまり「上等な物」を素人の平凡な物に置き換えすらしてしまう。
玄人に憧れへ平伏するでも染まるでもなく、しっかり素人生まれの立ち位置をわきまえた上であちらの世界を吸収しているのだ。なんとたくましいことか。

そして彼女は、花柳界を「豊富で狭くておもしろい」と、逆に今までの世界を「広すぎて不安」であると
感じている。
逆転の発想とはこういうことを言うのだろうか。
いつの時代も180度違う観点から観ることが出来る、しかもそれを自然とやってのける人間が「ただものじゃない」と一目置かれるのかもしれない。だから、やはり梨花も女中たちからなにかにつけ目を付けられる。よい意味でも悪い意味でも。

客とのやりとり、食事の用意、調達、上げ下げ、衣装や金の価値観と流通、物の売買、数え方、母娘や姉妹、主従関係、恨みつらみに色恋沙汰、喧嘩に借金・・・

話題は事欠かない。 日常すべてが驚きと面白みのある出来事ばかりである。

幸田氏の描いたこの物語が半世紀経っても全く色あせないのは、描かれた世界が今と変わらないとか、今も昔も同じとか、そういうことだけではないのだろう。
素人が玄人世界に、何も知らない人間が未知の世界に踏み込んで行く時のあの期待と不安、驚きと面白さ、そういった視点と臨場感がいつの世でも変わらない、ということなのだ。



梨花は寮母、掃除婦、犬屋の女中まで経験してきた四十すぎの未亡人だが、教養もあり、気性もしっかりしている。没落しかかった芸者置屋に女中として住みこんだ彼女は、花柳界の風習や芸者たちの生態を台所の裏側からこまかく観察し、そこに起る事件に驚きの目を見張る……。華やかな生活の裏に流れる哀しさやはかなさ、浮き沈みの激しさを、繊細な感覚でとらえ、詩情豊かに描く(新潮社文庫)



流れる (新潮文庫)
新潮社
幸田 文

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