『オー!ファーザー』 by 伊坂幸太郎
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作成日時 : 2010/06/19 11:16
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子供は親を選べないと一般に言うけれど、選り取りみどり、多種多様な4人の父親の元に生まれた子供の苦労を思えば・・・選べないことがどれだけ幸せか分かるに違いない(笑)
本書の主人公・由紀夫少年は、職業も才能も容姿も性格もてんでバラバラな4人の父親と、彼らを同時に4股にかけた母親の下に生まれた。
父親たちは誰もがみな由紀夫は俺の子だと信じてはばからず、しかしお互いそれを争うことなく一つ屋根の下(しかも大邸宅!)で彼らは自由気ままに暮らしている。
ギャンブル好きでガテン系の鷹。
女好きで容姿端麗な葵。
昔気質の熱血?中学生教師、勳。
頭脳明晰でクールな大学教授、悟。
はたからみれば4人の父親をもつ由紀夫は彼らの「いいとこどり」でオールマイティーな少年だ。しかし何かにつけありがた迷惑な愛情表現という干渉を続けるのが親の常。それが4人も居るのだ。
平穏無事を願うクールな由紀夫少年にとってこれほど迷惑かつうんざりすることはない。
伊坂氏の見事なキャラクタ設定によりどのページにもどの会話にも、そこかしこに笑いの壷が用意され、
彼らのやり取り、ぼけ突っ込み、ユーモラスかつ奇抜な行動・・・
次はどんな笑いがあるの!?と毎度毎度期待してしまう。そして期待は最後まで裏切られないのだから
やはり伊坂氏はすごい、としか言いようがない。
「あとがき」で伊坂氏自身が書いているように、著者には2つの顔がある。
第一期は「陽気なギャング〜」シリーズに代表されるような初期の作品群だ。
ノリがよく主人公たちの個性的なキャラ、会話とやり取りが笑いを誘うエンタメ系といえるだろう。
第二期は「魔王」や「あるキング」に代表されるような最近の作品群。
反政治的、社会批判的ともとらえられやすい、リアル世界の危機意識に訴える作風で、毎回違った切り口、小説家としての新しい挑戦の姿勢が窺われる。
さて。本書を「得意とするところ」と著者自身がいっているようにこの作品は第一期に書かれたものだ。
今度はどんな挑戦をするのかな〜と新作を期待していた私としては、中身が一期の作品だったので肩すかしを食った訳だが、読めばやはり面白い! 棚からぼたもちの心境だ。
さて、本題に戻ろう。
不登校のクラスメイト、自意識過剰な自称彼女の幼馴染み、面倒を起こしては道連れにするトラブルメーカーな友人、その友人に因縁をかけるチンピラ、賭け事から裏社会までを牛耳る富田林なるボス。
そしてカタギとは思えない「赤」と女癖の悪い「白」とで激化する市長選挙・・・
そして鷹につれられた(競馬ならぬ犬レース)ドッグレース場にて、由紀夫は観客の中でいちゃつくカップルと、その足下の鞄がすり替えられる現場を目撃してしまう。
それが運のつき。
まったく接点のない彼らが、この瞬間を契機にあっというまにつながっていくのだ。
同じ時期、同じ地域でくらしているという、ただそれだけの彼らが、知り合いの知り合いは知り合い。物語が進むにつれてあっという間につながっていくのだが、それがちっとも不自然じゃないのは伏線が見事に張られた構成の見事さによるところとしかいいようがない。
激化する市長選挙に鞄のすり替え、由紀夫の周りの些細ないざこざと殺人事件。
様々な思いを巡らすうちに由紀夫は不登校のクラスメイト宅を訪れてみるのだが、そこでとんでもない事件に巻き込まれることになる。
とらわれの身となった息子を父親たちはどうやって救い出すのか!?
奇抜で「んなアホな!」としか言いようのない救出劇が展開されるのでぜひ楽しみにしてほしい。
救出シーンひとつ、言葉一つにすら伊坂氏の見事な伏線が張られているのだから。
そして最後に。
少年の人生を4倍豊かで複雑なものにする父親たちの存在にたいし、少しだけかげりも入る。
喜びが4倍ということは、悲しみも4倍になるということ・・・
苦しみや悲しみも、いつか4倍訪れるのだろうという不安を由紀夫はふと感じているからだ。
でもそれは少年が少しだけ、本当の意味で「大人」になったということなんじゃないか?
そんな風に考えると、面白おかしいだけじゃない、優しい気持ちにもちょっとだけなったりもする。
なんにせよ、最後の最後までわらかしてくれるので、期待を大にして読んでほしい!
<あとがき>で、伊坂幸太郎自らが述べているが、『ゴールデンスランバー』以後の第二期にいたる最後の第一期の作品と言っているように、直近の、私としてはすこし物足りなさを感じた『モダンタイムス』『あるキング』『SOSの猿』の諸編とはまた異なる、伊坂流の直球勝負のエンターテインメントである。伊坂流とは、独特の人を喰ったような浮遊感があり、荒唐無稽な物語が現実味を帯びて展開し、いたるところに張り巡らしたバラバラの伏線が最後に収斂するミステリーではないかと思う。
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