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zoom RSS 『道徳という名の少年』 桜庭一樹

<<   作成日時 : 2010/07/26 13:30   >>

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桜庭氏が描く舞台はいつも大人と大人の作り出す常識という敵が待ち構えている。
そして本作では「道徳」という形をとって少女たちの前に提示されているのだろう。

道徳がコミュニティを保つという役割を果たし、必要とされる舞台は田舎だ。
閉鎖的で古い慣習が未だにのこるコミュニティでは道徳や常識や節度は何に増しても尊重される。

田舎という言葉では語弊があるかもしれないけれど、
少なくとも他人が何をしようとどうなろうと優しい無関心を向けてくれる都会ではない。
暗黙の了解に埋もれることが出来る現代でも都会でも無く、
明文化された道徳という規律が強く立ちはだかる昔々の世界と田舎。

本作はまさしくそんな「むかしむかし」のファンタジックな世界に始まり、私たちとさして変わらぬ現代にまで時代を下る。
非現実めいたお伽噺の世界で始まり、だんだんとその場所も年代も私たちの知る歴史上に重なって、最後に何も知らぬ現代の女子学生二人が、伝説となった彼らの物語を求めていく・・・。
描かれる物語もその世界、年代に沿ってだんだんとよりリアルに現実的になってくる。

美しい母親から産まれた4人の娘はやはり村一番の美しい娼婦となり、彼女らのもとに出戻ってきた母親は見る影も無くなり肥満化する。
娘が残した血筋の中から黄色い目をした親子が残り、彼ら父子を愛した少女は両手を失った息子と文字通り彼の両腕となった父親に抱かれて背徳と愛欲の夜を過ごす。
そうした物語を歌にのせて世界中を震撼させた伝説的ロックスターの話。
そのロックスターが自分の血縁であることに一縷の望みをかけ退屈な世界から飛び出した現代の少女たちの話。

父子の両腕の話などは「ちび黒サンボ」・・・虎がバターになってしまうシーンを思い出させる。それくらいファンタジックで、どこか創世神話のような雰囲気すらするのだ。
けれど私たちはそのあまりにも美しい語りに、ああ、そうなのかと頷くことしかできない。
今まで読んできた作品も含め、桜庭作品にはどこか現実の私たち読者を突き放すパワーがある。
いや、私が到達できないのかもしれない。その世界に居続けることを諦めてしまったからかもしれない。
かつていたけれど、追放されてしまった楽園。もう戻ることの出来ない過去。
たとえその世界もまた苦しみや狂気に溢れているとしても、彼女らは私の世界を羨むことは無く、私は彼女らの世界を羨み続けることしか出来ない。
有無を言わさぬ隔絶した神話世界が、桜庭氏の描く世界なのだと改めて実感した。

「道徳」が社会的生物としての人間を清く正しく美しく保つためのルールであるとするならば、
桜庭氏が描く少年少女たちは いつだって非道徳的な生き物だ。
「少女七竃と〜」「製鉄天使」「赤×ピンク」「砂糖菓子の弾丸〜」「荒野」などなど、
登場する少女たちはどこか異質で、現実離れしていて・・・素敵である。

そして私は最終章の少女たちのように その素敵な世界に少しでも繋がりがあればいいと物語を読み続ける。読み続けては自分の中にも彼女らのように生きた時代を思い出し ほんの少しだけ自分に酔う。



道徳という名の少年
角川書店(角川グループパブリッシング)
桜庭 一樹

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『道徳という名の少年』/桜庭一樹 ○
良くも悪くも、桜庭ワールドだなぁ・・・というのが第一印象。 淫靡で甘くまとわりつくような、それでいて砂のように乾いている、一族の歴史。喧しいのに、静かに流れて行く時代。 とても、桜庭一樹さんらしいなぁ〜と。 『道徳という名の少年』、町いちばんの美女から始まる、背徳の歴史。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2010/10/05 23:52

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
童話のような物語的だった世界が、少しずつ現実味を帯びていく様子に、「うつくしいものの喪失」を感じました。
空蝉さんのおっしゃるように、大人の提示する常識と闘う少年少女たちは、桜庭さんの筆でより一層、輝いていたように思います。
水無月・R
2010/10/05 23:59
お久しぶりです。そう、童話のようなファンタジックな・・・それでいて妖艶な。なんとも言いがたい世界が次第に形を帯びて来て、その代わりに失われるモノが必ずあるんですよね。桜庭氏の物語には。
桜庭氏には異色の作品でしたがそう言うところは失っていない桜庭氏です(笑)
空蝉
2010/10/06 15:52

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