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zoom RSS 『シューマンの指』by 奥泉 光

<<   作成日時 : 2010/09/29 10:27   >>

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日本でクラシックピアノ曲というとたいてい最初に出てくるのがショパンだろう。
今年 2010年はショパンの生誕200年ということもありイベントや商品を目にする機会が増えたのだが、その同じ年、もう一人の天才が生まれたことをご存知だろうか?
「トロイメライ」「謝肉祭」をはじめその名は有名であるにも拘らず、その生涯も作品も今ひとつぱっとしない、日本人には馴染みの薄い天才、シューマン、その人である。

彼は詩や小説といった文学に造形が深く、幻想と伝統的形式の狭間で物語的解釈を織り込み卓抜した才能を発揮した作曲家だ。手の損傷によりピアニストとしては再起不能となったが、本書を読む限りそれは彼にとって「解放」であり真の音楽への「到達」ですらあったようだ。
その後は作曲家として活躍すると同時に、「ダヴィッド同盟」なる架空の団体を創作し音楽批評家として文筆においても活動した。
彼は8人の子供に恵まれあたたかい家庭を築いたが、天才の多くがそうであるように彼もまた梅毒の病に犯され狂気のうちに世を去った孤独な天才でもある。

それにしても、私はシューマンという人について殆ど無知に等しかったのだが、本書を読み終え、こうして生意気に講釈を垂れる程に毒されてしまっている。つまりそれだけ著者のシューマンへの敬愛と物語の魅力、文章力は白熱しているというわけだ。
そして著者のシューマン熱は、一人の天才ピアニスト永峰修人でもって具現化される。

主人公は女子学生殺人事件に出くわし修人はその直前に現場に居合わせていた。それに続く殺傷事件で修人はシューマン同様、手に怪我を負いピアニスト生命を絶たれ世間から姿を消す。
事件は未解決のまま30年の月日が経ち、主人公のもとには永峰修人が再びシューマンを演奏したという便りが届く。あり得ない修人の復活に疑念を抱き、彼は修人との出会いと交流、信奉者としての日々を告白のようにして語りだす。彼らがかつて音楽批評を書き綴った「ダヴィッド同盟」ノートともに。

作中何度となくシューマンの精神と作品についての賛美と敬愛をこめた批評が繰り返されるが、それはそのまま、主人公が永峰修人という天才に寄せる「想い」に等しい。
聞き慣れない作品ナンバーで紹介される曲の数々、小難しい音楽論、音階や形式etc…正直、一般人の私にはチンプンカンプンであり退屈な部分もかなりあったのだが、それすらも著者のシューマン熱、主人公等の音楽への切実さを物語っていると思えば大事なパーツなのだろう。

中でも特に驚くべきは修人が繰り返し論破する「真の音楽」についてである。
シューマンが演奏出来なくなって初めてその存在を捕らえることが出来た、そして永峰修人が切望し得ることの出来なかった「真の音楽」なる概念。
それは演奏し音にして現実化すれば汚れてしまう絶対不可侵の完全なモノとして話題に上る。


「演奏なんかしなくたって音楽はもうすでにある。演奏はむしろ音楽を破壊し台無しにする」
「音楽はもうすでにある それは人間が演奏するしないに関係なくもうここにある」

形而上の正三角形は精密には実線で描くことが出来ないのと同様、音楽は楽器により音にした途端遠ざかる神聖な物だという。


その「真の音楽」への渇望と苦悩、それを得られぬ絶望と音の喪失のによって得ることのできたシューマンの歓喜と狂気が、一人の少年のなかに再現されていく。
シューマンの作品の紹介と永峰の演奏シーンの描写は幻想的で甘美でいっそ艶かしく、読者は酔い仕入れるに違いない。

物語が進むにつれ静かな狂気が見え隠れするがそれは誰の狂気であるのか。これは誰の物語なのか。
それは同級生女子の殺人事件のあらましが記されると同時にいくつかの「真実」が翻り、よりいっそう混乱を招くことになるのだがそこはぜひ、見極めながら読み進めて頂こう。

 天才が生涯捕われ続けた真の音楽

それだけが「彼」の追い続けた真実であり、この物語に置ける唯一の普遍の事実であろう。

「自分が何かを「表現」するのだとは考えずに、私も精一杯「音楽」に奉仕してみよう。力は足りずとも、一歩でも「音楽」に近づき、その美しい裳裾に触れてみよう。・・・無明の闇に一筋の光が差し込んだように私は感じたのだった。」

彼の言葉に、きっと何かを追求し続けるあらゆる人間にとって一筋の光が見いだされればいいと思う。





シューマンの指 (100周年書き下ろし)
講談社
奥泉 光

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soramove
2010/10/28 21:16
奥泉光『シューマンの指』
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itchy1976の日記
2011/02/28 19:22

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