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zoom RSS 「南の子供が夜いくところ」 by 恒川光太郎

<<   作成日時 : 2010/11/18 15:43   >>

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「人間でないものには人間でないものの現実が待っているとは思いもしなかった」
この言葉にハッとさせられた貴方は恒川氏の描く世界に恐怖を覚えるかもしれない。

その一家はこちらの世界で借金を作り一家心中するところを、呪術師ユナに導かれて日本を遠くはなれた南の島「トロンバス島」に連れてこられた。
そこはこちらの世界と繋がっている(時に船や交易など本土との交流をみせる)にも拘らず、神話や神、妖怪の類いといった、つまりは非現実的な現象が入り交じる不思議な土地だ。
ユナにより導かれ離散した一家。息子のタカシはなんなく島に定着しあちらの住民になって行く章を皮切りに様々な物語が続き、時には幻想的な、時には伝説めいた、時には妙に現実的な世界で読者を翻弄しつつ楽しませてくれる。
短編集のように平行したり前後したりして描かれる物語だが、少しずつ登場人物達は接点を持ち、ヤニューという化物やユナのような不思議な力を持った人間、不可思議な出来事や伝説が読者の興味をこの島から離さない。
だからどの章も少しずつ非現実めいて入るのだが、中には歴史上実際に起きた出来事、たとえば大航海時代白人が原住民を駆逐したあげく病気を持ち込んだという悲劇が明らかに織り込まれている章や、こちらの世界で海賊をしていたであろう男があちらの世界(トロンバス島)で土から「生えて」再生する顛末を描いたものなど、こちらの世界のSTORYはかなりふんだんに使われている。

だから、怖いのだ。

恒川氏の作品ではいつも一人の遭遇者を足掛けに「こちら」と「あちら」の二つの世界を描いているが、そのほとんどが偶然による接触だ。
いや、この世界、今生きているこちら側にほんの少し不満を持った人間が取り込まれやすいということなのかもしれない。
タカシの一家のように失敗したもの、人間関係や世界そのものに嫌気が差したものなど恒川氏の作品に登場する遭遇者そのほとんどはなにがしかの「不満」をこの世界に持っている。

「人間でないものには人間でないものの現実が待っているとは思いもしなかった」

最初にあげたこの言葉は最終章、植物人間の支配する世界へ犬として迷い込み逃げ惑うようになった父親の言葉である。
ユートピア、桃源郷、理想郷などという言葉があるように、私たちはともすれば別の世界を空想し、つらい現実から目を背け逃亡する。もしかしたらそうしてファンタジーは生まれるのかもしれない。
浦島太郎の竜宮城のような美しい姫と異世界の住人たち(魚達)が上げ膳据え膳してくれる快楽の地。
不思議の国のアリスのようにトランプや動物達が言葉を話すファンタジックな世界。
そうした非現実の素敵な世界は 幾度となく描かれてきたし、そうした作品はこれからも生れるだろう。

ただ、本作のような視点はなかなかお目にかかれるものじゃない。
いつ私たちが遭遇するかもわからない、取り込まれるかもしれない危うい境界線上を軸に物語は進む…境界線場の視点。つまり「こちら」と「あちら」は同時にこちらであちらなのだ。

「エイリアン」のように地球外の生命体との遭遇を描いた作品でさえ、映像に映る私たちはどこまでも「人間」だ。頭、手足、胴体があり、あちらに通じなくとも「地球の言葉」を口にしている。
彼らあちら側からみた私たちこちらが、どのような色形に見えるかなど考えたこともない!

常識が逆転する世界。言葉も常識も通じない世界。タカシの父がおそらくこの物語群の中でもっとも恐ろしい経験をする世界がまさにそれだ。(最終章)
ユナによれば彼が迷い込んだ世界は「廃墟の町」と言われる野生化した果実の生い茂る町であるらしい。
ただの果実畑で彼という人間は一匹の犬になり、鬼になり、果実という人間を喰った。
人間であるすべての常識を剥奪された彼が嘆いた言葉は、どこまでも興味深く恐ろしい。

人間でないものの現実

私たちは人間であるものの現実以外見ることが出来ない、視野の狭い生き物だ。
まあ、それはそうなのだろう。人間でないものの現実を見られるのは人間でないものだけなのだから。

私たちはせいぜい、この世界に見捨てられぬよう今この時を満足しなければならないのかもしれない。



南の子供が夜いくところ
角川書店(角川グループパブリッシング)
恒川 光太郎

ユーザレビュー:
トロンバス島という島 ...
日差しの中で読みたい ...
普通前作の草祭同様、 ...
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『南の子供が夜いくところ』/恒川光太郎 ○
あれ〜?なんか違うなぁ・・・。 南の島が舞台だからか、微妙に物語の世界観が期待してたものとズレてる・・・。 恒川光太郎さん特有の仄かな寂しさを湛えた異界の気配が・・・しないような。 いえ、ファンタジーとしては魅力のある作品だと思うんですよ、『南の子供が夜いくところ』。 ただ・・・単に私が期待していた和製ホラー(静かに怖い)と違ってたってだけですから。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2010/12/03 21:52

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
すみません・・・TBだけして、コメントをするのが抜けてました。
奇妙な現実と夢幻の狭間、という恒川さん独特の世界が南の島におかれる、というのは面白かったのですが、和製ホラーのあの恐ろしさを期待してたので・・・。ちょっと物足りなかったです。
でも、そうですね「人でないもの」側から見たその世界は、あまりにも恐ろしいですね・・・。
空蝉さんの記事を読んで、改めてぞっとしました。
水無月・R
2010/12/07 21:37
空蝉さん、こんばんは(^^)。
すみません・・・TBだけして、コメントをするのが抜けてました。
奇妙な現実と夢幻の狭間、という恒川さん独特の世界が南の島におかれる、というのは面白かったのですが、和製ホラーのあの恐ろしさを期待してたので・・・。ちょっと物足りなかったです。
でも、そうですね「人でないもの」側から見たその世界は、あまりにも恐ろしいですね・・・。
空蝉さんの記事を読んで、改めてぞっとしました。
水無月・R
2010/12/07 21:37

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