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zoom RSS 『僕が愛したゴウスト』 by 打海文三

<<   作成日時 : 2011/02/25 13:58   >>

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実はこれ、伊坂幸太郎があちこちでやたら薦めてるものだから読んでみるか、と読み始めた作品である。
伊坂氏は本書の解説をしていて、
「不思議で、素晴らしい終わり方だなと僕は感じた。〜そして、書棚の一番いい場所に置きたいなと思った。〜この本を読む人の中に、同じような気分になる人がいるかどうかは分からない。ただ、きっといるはずだ、いてくれればいいな、と思う。」
と書いている。
そして私は見事にその「同じような気分になる人」になってしまった。いや、少なくとも伊坂氏という私以外の読者で「同じような気分になる人」がいたということが単純に嬉しい。
そのくらい、お気に入りで、素晴らしくて、ただただこの作品との出会いが嬉しいのである。
では 前置きはこのくらいにして。

主人公の翔太はいわゆる草食系で臆病な、しかし自分の幼稚さと非力さを自覚している平凡な11歳の少年である。翔太は電車の人身事故に巻き込まれて以来、イオウのような臭いと不自然な笑いと尻尾の生えた心を持たない人間の世界に迷い込んだらしい。
訳の分からないまま、警察と自衛隊から追われ、唯一の元の世界からの同伴者である売れない俳優・山ケンとともに逃亡するがこちらの「家族」の裏切りによって捕われ、軍の監視下のもとキャンプ・ポピーで微妙に平穏な日々を過ごすことになる。国家機密として、研究対象として、要注意人物として。
監視役の職務に徹しつつ自然な表情で明るく接する豊田准陸尉、唯一元の世界を共有し粗雑ながらも男気のある兄貴分の山ケン、違う人間だと分かってもなお「山ケン」を愛し続ける恋人ユキ、翔太たち「メタ認知生命体」について奇抜な可能性や仮説を研究するユニークな老研究者、阿部先生・・・。

元の世界に帰る方法もこの現象を説明することも出来ないまま、翔太は彼らと緩やかに楽しくキャンプポピーで過ごすのだが、しかしその平穏な日々も阿倍のある仮説により崩れ始める。
2つの世界も人も思い出も、自分自身さえも否定するその仮説にすべてを失った翔太は、一人の「ゴウスト」の助けによってキャンプから逃亡し、一つの思いを築き上げる。

彼らの遭遇した現象は何であったのか、どのような真実が待っているかは読んで頂くとしても、この作品にはそんな事実解明などものともしない素晴らしい「答え」がある。

「ぼくは誰かのあいにすがりついて生きてきた。〜相手になって欲しい、というのがぼくの愛の請い方で〜日常を平穏のうちに乗り切るには、誰かに愛されていることが必要だった。」

彼の思ったこの一文に、きっと人間という生物の哀しくも愛おしい全てが集約されている。

人は「私」を見てくれる、つまり他人からの認識されるという「愛」なしには生きられない。
それはきっと倫理的や道徳的な生易しい意味ではなくて、もっと根本的で本能的で、残酷なまでに必然的な生存条件で・・・翔太はそれに気がついたのだろう。そういう意味で、これは少年の成長物語、といえなくはない。

実は私にも覚えがある。
やはりあれも翔太と同じ小学高学年〜中学初頭にかけての少女期だ。
「私って何?」「私を見ている、この私は誰?」「これを今考えている私ってなんなの?」と
合わせ鏡のような「私」の意識、認識について延々と問い続けた日が確かにあった。
私を見ている私、そんな私を感じている私、そのまた私を考えている私・・・
答えのでない永遠の問答に幼い私が気が狂いそうになる、そして他者に助けを求めるのだ。
愛して欲しい、認識して欲しい、「私」という個体を客観的に、確実にこの世に存在させて欲しい、と。

彼はそれをゴウストたちに求めた。愛する人たちをいつかは消滅する恐怖に怯えながら、それでも自分を愛してくれるよう、より懸命に請い続けた。
翔太の行動は他力本願で、弱くて非力で幼稚だけれど、きっと何より人間的で根本的な行動だ。

だから、私はこの作品に、非力で弱くて「私って何?」と問い続けたあの頃の「私」を思い出し、
目頭が熱くなった。感動したからではない、ただひたすらに懐かしかったからだ。

遠くなってしまったあの頃の、素直で不安な気持ちをまだ私は覚えている。
今はもう無くしてしまったあの本能的な葛藤を、この本が戸棚にある限りいつだって思い出せる。

伊坂幸太郎氏。私も「書棚の一番いい場所に」置きたくなりました。


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