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zoom RSS 『伏 贋作・里見八犬伝』 by 桜庭一樹

<<   作成日時 : 2011/03/23 15:07   >>

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八犬伝といえば名前を知らない人は少ないだろう。幾度都無くマンガに小説にパロディーにとリメイクされているので様々なイメージがもたれているかもしれないが、今回の「八犬伝」ほど真作をかけ離れた作品もまた、無いのではなかろうか。

オリジナル八犬伝では、互いの存在すら知らずバラバラだった8人の剣士(犬士)が不思議な縁を経て終結し、国を揺るがす妖怪の陰謀を打ち破る勧善懲悪のヒーローものである。
そもそも彼らは伏という姫が敵将の首を取って来た犬=八房に(!)褒美として差し出され、まあ、簡単に言えばその犬と姫との間に出来た子供のようなものである。
犬士たちは儒教の徳を示す1文字が刻まれた玉を各々持って産まれ、牡丹の痣を持つ。
8人は健やかにたくましく成長を遂げ、それぞれ個性を生かし超人的な活躍をするが、あくまで人間。
そう、これは悪政に苦しむ民衆がお上を打つという鬱憤ばらしの物語であり、主人公たちは清廉潔白、正しい正義の味方でなくてはならない。

しかしこの作品、桜庭一樹氏による「贋作」にはその要素はいっさい、ない。
まず犬士たちは本当に犬の血を引いている半獣「伏」であるし、牡丹の痣に加えて「獣の臭い」をさせている。見目麗しいとはいえ、人にまみれながらも人を襲い、世間では「伏狩り」の賞金稼ぎが出回る程だ。
その猟師の一人として活躍するのが、幼いながらも腕のたつ、山から出て来たばかりのヤンチャな少女「浜路」。そう、八犬伝では犬士の一人・犬塚信乃の許嫁であり陰謀に巻き込まれ早逝したヒロインだ。
まずここでおしとやかな「浜路」のイメージがガラガラと音を立てて崩れさるだろう。

彼女は兄・道節(彼もまた本来紳士的なはずが、酒好きのだらしないダメ兄貴の設定である)と暮らすため江戸に出て来た訳だが、猟師として獲物「伏」を狩ることに生き甲斐を見いだす。
彼女は何度となく伏たちに遭遇し、出会い、別れ、不思議な交流を交わすうち、いわゆる犬人間「伏」の真実に触れて行く・・・

ただし、これは単に心を通わせ「伏」の物語に同情し、悲劇もしくはハッピーエンドで終わるという物語では、けしてない。
物語はたしかにオリジナルを大きくかけ離れ、キャラ設定に関しては殆ど180度真逆である。
何しろ勧善懲悪の物語ではないし、誰が悪でも善でもない・・・が、ただひとつ共通するところとすれば「因果」という点である。
世代が変わり、歴史が流れ、場所が移っても決してかわらないことがある。
たとえば伏が短命であること、人の中では生きられないということ、狩られるものであり続けるということ。

狩るもの(猟師という人間)と狩られるもの(伏という獣)。
その二つの関係が浜路という一人の少女と伏との交流の中にほんの一時、描かれる。
それは例えば小野不由美の「屍鬼」のように、「フランケンシュタイン」のように、喰う喰われる、狩る狩られる、補食されるものとするもの、といった天敵同士の中でかいま見られるロマンスにも似ている。
なにせ、人は報われない愛の物語にからきし弱いのだ。

けれど今回はラブロマンスというよりも延々と続いて来た、そして続く因果の存在がメインだろう。
思えば桜庭氏の作品「赤朽葉家の〜」もまた巡り巡っての因果の物語であった。
氏の作品に描かれる女たちはいつの時代も繰り返す「宿命」のようなものを背負い、それとともに逞しく生きている。今回何度となく出てくる言葉「因果」はそうしたものと良く似ている。

正直、作品としては大きな感慨や感動、泣けるシーンがあるというものではない。
桜庭氏の作品としては異色なのかもしれない。
けれど私はこの物語に吸血鬼ドラキュラの哀しいサガのようなものと、同時に巡り巡って生き続ける力強さを見た気がする。

単純に読み物として楽しむもよし、桜庭氏の異色作として読むもよし。

伏 贋作・里見八犬伝
文藝春秋
桜庭 一樹

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『伏 〜贋作・里見八犬伝〜』/桜庭一樹 ○
実は、原作である『南総里見八犬伝』は、大体のあらすじは知っていますが、読んだことないんですよね・・・。 かなり壮大な江戸時代の物語で、作者は滝沢(曲亭)馬琴。 伏姫の元にあった、「仁義礼智忠信孝悌」の文字が浮かぶの水晶玉を持った、苗字に「犬」がつく八人の剣士の大活劇なんですよね、ざっくりと纏めてしまうと(←まとめ過ぎ)。 それを桜庭一樹さんが、贋作と称して描き直すと、こういう物語になるんですねぇ。なるほど。 厚みがあるけど、一気読み出来ましたよ、本作『伏 〜贋作・里見八犬伝〜』。物... ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2011/08/11 21:55

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
原作の方は、あらすじ程度(それと過去の角川映画(笑))しか知らないので、ちょっと読み始めはビビっていました(^_^;)。
でも、狩るもの・狩られるもの、の対立と奇妙な交歓が楽しかったです。
水無月・R
2011/08/11 22:40

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