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zoom RSS 『死ねばいいのに』 by 京極夏彦

<<   作成日時 : 2011/08/09 13:03   >>

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『厭な小説』といい本作『死ねばいいのに』といい、まったくもって挑戦的かつ興味を引かれずにはいられないタイトルである。ネーミングセンスとでも言うのであろうか。次回は『非売品』とか『買わないで下さい』とかいうタイトルをつけるんじゃないかとこっちがヒヤヒヤしてしまう。
さて、そのタイトルについてあちこちのインタビューで答えているように、著者自身は本作をネガティブではなくポジティブな、「死」ではなく「生」の作品として書き上げたという。

ストーリーとしてはとても単純な構成である。
友達にも男にも、仕事にも家庭にも恵まれない、不幸だらけの人生を送ってきた孤独な女性「アサミ」が死体で発見された。 ケンヤという青年はアサミが生前付き合いのあった人物等の元に、彼女について教えてほしいと聞いて回る。

彼らの人生をアサミだけに焦点を絞ると、こうなる。
アサミはいわゆる不幸な家庭環境に生まれ、愛し方の解らない母に育てられ、その母の借金のカタにやくざに売られ、そのヤクザの弟分にお下がりされ、定職にもつけず、友もおらず、派遣先の上司に弄ばれ、ストーカーには強姦され、そのストーカーの元恋人である隣人に悪辣な嫌がらせを受けていた。
まさに不幸のかたまりである。

上司、友人、母親、ヤクザの彼氏、警察・・・ケンヤはアサミについて「知りたい」と聞いてまわるが、彼ら誰一人として彼女のことを「識って」はいても、「知って」はいない。語られるのは彼ら自身の人生模様ばかりであり、読者である私たちもまた、アサミでもケンヤでもなく、本来なら「その他大勢」で済まされる脇役の人生ばかりを目の当たりにすることになる。
ケンヤとの問答のうち、彼らは次第に己の人生への不満、世界への欲求、他人への非難をあらわにしその感情(怒り、悲嘆、落胆、絶望、羨望、憎しみetc…)をヒートアップさせ、頂点に達したころ彼にこう言われるのである。

「死ねばいいのに」

タイトルでもあるこの言葉は、どうして死なないの?その方が楽なのに。とい純粋無垢な問いかけの言葉だる。
「死んでくれ」という哀願でも「死ね」という命令でも「殺してやる」という殺意や憎悪でもなく、「死ねば?」といった投げやりな言葉でもない。ただ純粋に、そんなにつらいならどうして生きてるの?と主人公ケンヤが行く先々で人生に疲れた大人へ問いかける言葉なのだ。

人間は、ことに頭の凝り固まった大人は裏のない純粋な質問の応えに窮する事が多い。
もし私が「死ねばいいのに」と言われた彼らのうちの一人だったとして、どう答えられるだろう。
自分の過去、現状、先行きに不満と不幸が蔓延し(少なくともそう思い込んでいる状態で)、嫉妬や欲望、憎悪や絶望にまみれている時、人は軽々しく「もう死にたい」と口にする。
けれどそれがどれほど軽いものであるか、本心からではないタダの逃げであり、愚痴であるという事がケンヤのたった一言で暴露されてしまうのである。
「死ねばいいのに」

そして「そうだよね、死ねばいいよね、じゃあ死のう。」なんて展開は、彼らの中に一つもない。 ああ。やはり京極氏の言う通り、これはたしかにポジティブな物語なのだ。
社会に不満を持つ人も、生活に不安を重ねる人も、他人に嫉妬や憎悪をつのらせている人も、自分が大嫌いな人も・・・これを言われて素直に死んでしまう人は、まあ、なかなかいない。
おそらく彼ら同様、「どうしてそんなこと言われなくちゃいけないんだ!?」と怒るだろう。
そして気がつくのだ。自分はまだまだ「生きたい」のだと。生きたいからこそ不満も欲求も湧くのだと。
満たされないからこそ、生きようとするのだと。

この物語で、本当に死んだのはアサミただ一人である。
アサミはなぜ殺されたのか?なぜ死んだのか?
その答えもそこにある。

京極氏の描く物語はここでもやはり憑き物落とし。
形は違えとこれも一つの自己啓発本である。





死ねばいいのに
講談社
京極 夏彦

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『死ねばいいのに』/京極夏彦 ○
相変わらず、挑戦的だよなぁ京極夏彦さんて(笑)。 『死ねばいいのに』って、ホントすっごいタイトルじゃありませんか、ねぇ。なにもそんなにあからさまに言わなくても・・・と鼻白みつつ、読了してびっくり。 ははぁ〜、へぇ〜、そうなんだぁ。ていうか、京極さんて、ホントにオソロシイ作家さんだなぁ。 面白いというか、後味が悪いというか、どう表現したらいいのか・・・。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2011/08/09 21:56

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
うわぁ〜!そうか、〈憑き物落とし〉ですね!
絶妙な瞬間に言い放たれる「死ねばいいのに」は、まるで呪文のようですもんね!ナルホド!です。

でも・・・ケンヤの一言で落とされた憑き物は多分、また彼等に依り憑いちゃうんでしょうねぇ。業の深い人たちですから(^_^;)。
水無月・R
2011/08/09 22:02

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