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zoom RSS 『失われた町』by 三崎亜記

<<   作成日時 : 2011/10/05 10:03   >>

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「町」とは何だろうか?前作「となり町戦争」では隣り合う町同士が、ある日突然「戦争」をはじめ、ただ静かに不気味に戦争が続いていくという不思議な物語だったが、町そのものの存在はあまり描かれていなかった。それに比べて今回の町はまるで意識を持った大きな生命体のように、意図的に人間をとらえ、自身(町)の消滅に町民たちを巻き込み、外部からの侵入を拒む恐ろしい存在である。
いや、そうした「消滅した町」へと静かに、徐々に、人々の無意識のうちに移行していくと言った方が良いだろう。「消滅」という名の通り、その時その町にいた人々は消え去り、街全体が廃墟と化し、そこに踏み入る物は「汚染」されて身体的精神的に様々なダメージを被る。
まるで先の2011年3月、東北関東の大震災とその後の放射汚染のように。

現実問題、あの震災で原発が壊滅し、流れ出た放射能などの汚染がどの程度の物か・・・安全性が曖昧なままだったため被災現地の農業や酪農、漁業などがその風評により多大な被害を被った。
非難でもなく罵声でもなく、そうした不安から広まる「拒絶」は、本書に登場する被災者たちにも大きな影を落としている。
この物語は町が突然人々とともに消滅するという非現実的な物ではあるが、その実中身はしごく現実的、リアリティに富んだ切実な物語であることを心して 震災後の今、読んでほしい。

まず本書の世界では町が消滅するという不可思議な現象が随分前から不定期に、何度となく起きている。
退廃でも過疎でも撤去でもなく、その名の通り住民を含めあらゆる物が消滅し、機能が停止し、廃墟と化す。消滅の影響や感染、汚染を広げないため国は率先して町の記憶を回収および撤去し、文章や写真、検索記憶など歴史そのものから町の名前とその町に関するあらゆる物を削除する。
人々は消滅した町の生き残りや汚染された人間を汚物のように裂けある言葉を吐いて遠ざける。

そうした誰もが忌み嫌う町「月ヵ瀬町」を静かに、ただじっと見つめるペンションが「風待ち亭」だ。

この風待ち亭には失われた町を前にして、目を背けるわけにはいかない事情を持った人々が集まる。
町の消滅とともに家族を失ったオーナー。
自らの「場」に戻りけじめをつけて再び向き合えるようになって戻ってくるという男を待つ女。
恋人への重いとともに町に記憶と言葉を持っていかれた男と、彼がいつしか自分と時間を取り戻す日を待ち、支え続ける女。
愛する妻と子供が静かに消滅するのを見届ける、ただその時を静かに温かく待つ夫。
消滅した友人が託した消滅回避データを引き継ぎ研究に人生を捧げた女と、その女を支えいつしか成功する日を待ち続ける男。

本書に描かれたのはこの他数人の、失われた町とともに大切な物を失ってしまった人生だ。
どれも哀しく、重く、けしてハッピーエンドとは言いきれないストーリー展開ばかりだけれど、
その一つ一つに彼ら大切な物を失ってしまった、失われつつある人々の切なる願いと思いがある。
彼らは失われた町、大切な人を奪った町を憎むでも無く拒否するでも無く、ただ静かに見下ろして「待って」いるのである。
そして無関係であった彼らの人生が、この「風待ち亭」で少しずつ繋がり再生のときを迎えていく。

この物語の町の消滅という現象がいったいなんなのか、結局のところほとんど解明されていない。
ただ私たち現実世界でも「消滅」は日々起きているのではないかと、ふと思う。
人と人とはふいに切り離されたり失われたり、時にはすべてを瞬時に失ってしまうことがある。
例えば今回の震災のように。例えば大きな戦争・・・被爆のように。

けれどそうした絶望の中でも誰かの帰りを待ち続け、取り戻す日を諦めない思いがあれば
心は失われないとそう思う。
消滅した町(失ったこと)を受け入れ、それでも取り戻す日を諦めない。
生き残った自分を受け入れ、その身一つで出来ることを探し生きていく。
待つということ。
それは消極的でもなく受け身でもなく、誰よりも強くその場に立ち見守り続ける強い意志が必要だ。

先の震災で多くの人が悲しみと苦しみに苛まれ多くの物を失った。
けれど失った物を見つめ、まずその場にすくと立ってほしい。
そんなことを改めて教えてくれる、待ち人たちの物語である。



失われた町
集英社
三崎 亜記

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『失われた町』/三崎亜記 ○
三十年に1度、1つの町から人が全て消失する。そこで生活していた人々は、自分達が失われることを知りつつ、「町」の影響下にあるため、助けを求めることも、阻止することも出来ない。そうやって、消滅は繰り返されてきた。失われた人々を惜しみ嘆くことは、「余滅」を引き起こすとして、忌避されている。 そんな「町」と対抗する組織「消滅管理局」。「町」は意思を持って、人々を引き込もうとする。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2011/10/06 20:47

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
三崎さんの作品の日本と似ているようでどこかルールが違う世界は、とても不安定なのに、心惹かれますね。
あの震災以来、三崎さんの作品に漂う「孤独だけれど優しい」イメージが、現実世界にもあってほしい、と願うばかりです。
水無月・R
2011/10/06 21:02

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