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zoom RSS 「僕の背中と、あなたの吐息(いき)と」 by 沢木まひろ

<<   作成日時 : 2011/10/14 11:56   >>

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沢木まひろという作家の作品には、いつも「家族」が大きな影を落としている。いや土台を築いているというべきかもしれない。
家族、それは家庭でも実家でもなく、帰る場所であり自分の場所。
「行ってきます」と言い、「お帰りなさい」と返され、自分が何者であるかと確立させてくれる場所。私に名前をくれる場所である。

これはあくまで私のおおまかな印象なのだけれど、男性の多くは生まれ育った家族からの自立と新しい自分の世界の構築に一線をおく。逆に女性はいつまでも自分の家族を土台に守り続ける節がある。例えば父親は「男」の基準や象徴になり、母親は永遠に共感を求めてしまう唯一無二の存在であるように。
(もちろんあくまでも私のおおまか〜な印象で、全部が全部そうとはいわない)
そう考えると沢木氏の作品はまさにそうなのだと、家族が根幹にあるのだと改めて思う。
女性はたいてい結婚して外に出て姓も変わり男性の家に「入る」、実家から切り離されることになる。
だからなのだろう、生家を愛おしく身近にあってほしいと願うのは。
故郷は遠くにありておもうもの。その言葉は自立して都会へと故郷を出るようになった近代の男にだけ当てはまる物ではなく、むしろ女性は当たり前のようにそんな思いを嫁せられてきたのだ。はるか昔から、いずれ結婚すればという言葉とともに。
いわずともがな沢木氏は女性の作家である。描かれているのは男性が(しかも同性愛者が)圧倒的に多く彼らの心に女性らしさはさほど見受けられないが、それでも男性作家にはこうした描き方は出来ないだろうなと思う。これほど堂々と、そこかしこに、しかしさりげなく重要な役回りを「家族」に与える彼女の作品は、あまり男性の作品には見受けられない。
(もしかしたら男性は「家族」。ことに母親とか父親とかを引きずるのが恥ずかしいのかもしれない)

前置きが長くなってしまった。本編に入ろう。

純粋でまっすぐであるがゆえに、人を好きになるとほんの少しのズレも許せない、一つになりきろうとしてしまうタイプがいる。元教え子の同性の恋人/陽向(ひなた)はまさにそれで、正午は彼に惹かれ愛し
ながらも受け止めきれず逃げてしまう。全てを分かり合える恋人が完全な愛=フルムーンであると求める陽向にとって、昔の「客」である小夜やちょっとした隠し事…人間ドックの結果や嫌がらせメールなど小さな悩み一つ一つを逐一話してくれない恋人(正午)の無精さは、心を開いてくれていない悲しいことだと思っていた。
過去のことでも全て知りたがる陽向に対し、正午は触れられたくない過去(母親の自殺がトラウマになっている)や思い出を恐がり、執着することを拒否する。
そんな完全に愛し合っていても100%一つにはなれない、不器用でじれったくて、もどかしい仲の二人のやりとりが一応、メインのストーリーで読んでいるこっちは本当にやきもきしてしまう。
勿論これだけでも十分な作品になったのであろうけれど、もう一つ、自分の何も持たない空虚さに危機感を覚える中年女性(小夜)の一人称が加わるからよりいっそう引き込まれる。

先ほど沢木氏の描き出す物語には「帰る場所」「自分の場所」となる家族が根底にあると私は言った。
彼らは性格も立場も家族構成も生活も皆バラバラで抱えている物も「家族」に対する見方も違う。3人のネックになっているのはやはり「家族」なのに、それぞれ皆違うのだ。

結婚するでも無く自分の存在の不確かさに不安を覚える小夜と、恋人に過去を含めて永遠の愛と「家族」を求める陽向と、それを受け入れるのを恐れ、今以外の自分と家族と過去を切り離していく正午と。

彼らは時にぶつかったり遠のいたり傷つけ合ったり、愛し合ったりしながらそれぞれの居場所を見つけようと必死になっている。
彼らの求める先がどのように伸びていくのか、彼らが家族を何処に、何を求めていくのか?
完全な答えも正解も どこにもない。なにしろ彼らの物語は現在進行形で、きっと今も不器用に探し続けている。
ひとつひとつ物語を紡ぎながら、過去を許し、自分だけの変える場所=家族を見付け、築いていくのだろう。 



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