■空蝉草紙■

アクセスカウンタ

zoom RSS 『145gの孤独』 by 伊岡瞬

<<   作成日時 : 2007/08/04 11:34   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像

これはミステリーだ。なんてったって第25回横溝正史ミステリ大賞受賞第一作なのだから。
何がミステリ=謎かって、本当の謎は最終章になってようやく謎があることが判明するのだからひねったもんである。
まず真っ先に思いついたのは三浦しをん『まほろば駅前〜』ととても似ている展開だということ。便利屋を始めた主人公が依頼主との出会いの中でいらぬおせっかいにまで首を回し、涙あり笑いありの解決をみるという数篇の物語。
しかし違っているのは主人公である倉沢自身がミステリーであるということだ。
主人公=倉沢はかつて有能なプロ野球投手であったが、彼の放ったそのたった145gの硬球がバッター真佐夫と自信のピッチャー生命とを奪う死球となったという過去を持つ。
真佐夫の妹・晴香を加え3人で始めた便利屋だが「付き添い屋」としての仕事依頼が何故か定着する。
 なぜか毎週水曜日にサッカー観戦へと息子を連れ出して欲しいという未亡人。
 義弟の浮気相手である外国人ソープ嬢・ウィルマをフィリピンに帰すため、成田まで見届けて欲しいという元野球知人・村越。しかしウィルマはその前に同じ日本に働きに借り出された妹マリアに一目会いたいというが、彼女達は双子でありそのことが「正体」をややこしくする。
 荷物の整理を手伝って欲しいという70代の老女の依頼、しかし泊り込むことが条件。しかも彼女は毎日不可思議な「お話」を言い聞かせる、その真実は一体何か?何のための依頼なのか?
そしてようやく気がつく、彼の元に舞い込む依頼主達には「死」が直前まで迫っているということに。そして最後の依頼もまた彼の上司・戸田と「娘」とが繰り広げる血肉の憎しみを漂わせたドライブの「付き添い屋」であった。

ようするに、倉沢の元には死が迫っている「依頼主」が寄ってきており、口も態度もでかい子供のような、しかしおせっかいな彼によって解決するという流れ。
どれも「なぜこんな変な依頼なのか?」という謎解きに始まり、その謎はじつはかなり入り組んでおり二転三転してようやく真実が事態の解決とともに明らかになる。
それだけでも短編ミステリーとして十分楽しめるのだが、最初に言ったとおり、この作品全体を通して一つの大きなミステリーが隠れている。
彼自身と、彼が「殺した」元バッター真佐夫と、その妹との関係である。

決して投げずに逃げていた彼が次第に草野球のソフトボールを投げ始め、トレーニングをこそこそはじめ、硬球をも投げ始める・・・しかし彼のきき腕・左手はいつもふるえている。
中途半端な希望と、不安と、期待への息苦しさで震えていた左手が、とうとう機能しなくなった時に彼は初めてそのすべてから解放される。解放、しかしそれは同時に失うということでもある。たった145gのあの硬球が真佐夫のこめかみを撃ったときから彼の選手生命は絶たれ、その後に起きた惨劇に目を瞑り、すべての救いの手を拒絶してたった145gのそれだけを握り続けてしまった彼。そのくせとっくにそんなものは手放したと思いたかった彼。
手を失って初めて彼は気がつくのだ。こんなにも後生大事に希望と失意のつまった145gのそれを握り続けていたことを。

大きなモノを失い、失ったことに目をそむけ、それでも自分がしがみついていることすら自覚できずにいる一人の男がいた。その彼がようやく失ったものを認め執着を手放し再生するまでの物語だ。
ハートウォーミングなミステリー、ととある紹介に載っていたが、ハートウォーミング?とんでもない。walm=暖かいどころかcoldからようやく溶けかかっていくまでの痛々しくすらある人生の再生を描いた物語である。


145gの孤独
145gの孤独

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『145gの孤独』 by 伊岡瞬 ■空蝉草紙■/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる