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zoom RSS 『ゴールデン・スランバー』 by 伊坂幸太郎

<<   作成日時 : 2008/01/12 00:04   >>

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魔王の再来だ。・・・って書くとなんかの危ない小説化ファンタジーかって思われてしまう;;
小説『魔王』を初めて読んだ時、伊坂幸太郎はこういう政治的なものも書くんだな、意外。って思ったものだ。 それまではあまり政治色の強いものも、反社会的なもの?も書かれていなかった氏の作品群には、ちょっと変わった人間や、世界や能力の持ち主達は現れこそすれ、どこか架想の世界じみていたりコメディだったりして「遊び」があった。笑いがあった。
が、『魔王』で一気に反社会的とも言えるような(無論そういうつもりのさくひんではないにしても、だ)攻撃的な作品が出、今回の『ゴールデンスランバー』ではより一層その色が強い。
そしてその描かれる暗い世界に、必ずパンドラの箱はあり、本の一握りのアウトローたちがこっそり必死に生きている、そんなけなげでもあり必死でもあり、応援すらしたくなる者達がいる。

本作と『魔王』が重なって見えるのは、どちらも絶対的な権力とその圧力が存在する世界で、人々は往々にしてそれらの手の上で転がり生きていること、そんなこの世界に気付かない。
平凡にその大多数のうちの一人であった一人が「特殊」なものとしてその世界からはじき出され、「主人公」が誕生することに物語が始まる。 
集団からはじき出されるということ、それはスケープゴートにされることであり、保障されていた安全も友人も地位も名誉もすべて剥奪されるということである。地球上に生活している私達は平穏無事だが何も知らない。しかしロケットから地球を見た人類は、自分達人間が地球に乗っかり回されている立場に過ぎないのだと、初めて気がつくだろう。

突然、首相殺しの犯人に仕立て上げられ、異常なほどの追撃が続き、警察は平気で銃をぶっ放す。
監視カメラや政府による「公的な」盗聴…莫大な何らかの力が働いて自分を犯人に仕立て上げたいのだと推理するが、まったくもって理由すら見つからない。ただこみ上げるのは混乱と恐怖だけ。

モト彼女の回想によってくり返される主人公の青春時代、彼と彼女と友達と後輩と・・・他愛も無いありきたりの平凡な学生時代がそこにはあり、彼にとって「あの頃」は今や帰れない。まさに『ゴールデン・スランバー』の歌詞の通り、かつては故郷(家路)に続く道があった、過去形なのである

帰る道を失った、それでも彼は必死に生きる。今の手持ちで何が出来るのか。自分と、信じられるわずかな友人と可能性、信頼・・・数少ない「手持ち」でもって得体の知れない巨大な敵と戦う主人公にできることは「逃げる」こと。 ドンキホーテのように無謀に立ち振る舞い反抗するのではなく、ただひたすら逃げ切ること。・・・なんとまあ、現実的で、真実だろうか!

人を一人、はじき出してスケープゴートに仕立て上げていく。それが「集団」の黙認の権力とルール。
人間は集団になる時、個人的なことプライベートなことではない時、自分に係わり合いがない時、
往々にして傍観者となり無責任な発言に便乗する。一個人の意見を持たず、自分自身の「真実」を持たずに世界・社会の提示する事実らしい出来事の情報に納得する。
彼の協力者となった身近なもの達ですら、「首相殺しの犯人」が彼でなかったらあっさり決め付け相手にしなかったであろう。 現実はそんなもんだし、私だってきっとそうだ。

しかし彼らは彼を信じた。彼らは己の持つ真実を貫き守り勝ち残った。彼が勝利、つまり逃げ切ったのだから。
どんなに強大な権力が支配しようと、一個人の中に沸き起こる真実までは、けして消すことが出来ない、そう、本作は訴えているように思う。

最後に。 本編のテーマやら小難しいことは一切抜いても、相変わらずの口調や会話や伏線がなんとも面白い!さすが伊坂節。
魔王とあわせてぜひご一読して欲しい。

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『ゴールデンスランバー』/伊坂幸太郎 ○
・・・結構、消化不良なんですけど。いや、伊坂さんらしい、時系列の絡み合った緻密な、ある意味登場人物たちに都合がいいぐらいキッチリ組み立てられたストーリーで、読んでいて爽快なのですが。 明快な結末が用意されてなかったことが、ちょっと残念。でも、私の希望する「何故?の解明」まで書こうとすると、もう1冊は必要で上下巻になりそうです(笑)。 しかも、作品傾向が全然違った物に・・・。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2008/03/31 22:35
映画『ゴールデンスランバー』 by 原作:伊坂幸太郎
じつは伊坂氏の原作『ゴールデンスランバー』をすでに読んでいるので、期待を裏切るのではないか・・・という心配をしつつ観にいった。 が、そんな予想を完全に払拭して余りある出来栄え。「大変よく出来ました」と花丸をつけたい(この意味は観たヒトにはわかるはず){%ピカピカwebry%} ...続きを見る
■空蝉草紙■
2010/03/11 12:35

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
青柳と関わる(助ける方で)人々の、暖かい思いと青柳に関する信頼が、とても素敵だったと思います。
『魔王』、未読です。空蝉さんの記事を読んで、すっごく楽しみになりました!
水無月・R
2008/03/31 22:56
GSならぬGW突入しましたが私はまだ会社です・・・『魔王』も『GS』もこういうのが案外伊坂氏の根っこにあるものなんじゃないかな、って思ったりします。
空蝉
2008/04/29 21:35
今日、読了しました。
伊坂幸太郎、素晴らしいです。
とても楽しめました。
彼の作品の伏線はすごいの一言ですね!
http://kaori-maki.cocolog-nifty.com/makimaki/
空蝉さんの、この本への感想は、とても明快で、そして同感です。
maki
2008/09/25 18:29

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