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zoom RSS 『名残り火〜てのひらの闇U』 by 藤原伊織

<<   作成日時 : 2008/03/08 01:38   >>

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改めて、日本におけるハードボイルドかつミステリー界は掛け替えのない重鎮を失ったのだと思い知らされる。ココ1年読んできた現行作家によるミステリーがつまらないわけではない。若い作家の新しい作品を読み、時には涙し時には笑い、様々な才能溢れる作品を読み、彼ら素晴らしい新しい世代に期待しないわけがない。  しかし。 故・藤原氏は、ちがうのだ。
なんという美しい文体だろう。なんと見事な文体、綿密な素材、魅力的な男達、そして全体に突き抜けるような一筋の意思。 改めて感服させられる。

完全に推敲されていないことを指摘する人も多いだろうが、私のような若輩者にはこれで十分である。足りて余りある作品。残念ながら私は『てのひらの闇』はドラマで見たきり、まだ読んでいない。
順番が逆になってしまったこと、残念を通り越して失礼この上ない・・・まず冥福をお祈り申し上げる前に、この点を故藤原氏にお詫び申し上げたい。


書評、といっても本作ストーリー自体に対する面白さは言わずともがなである。

無二の親友・柿島が暴漢に襲われ謎に満ちた死を遂げる。不審に思う堀江が調査を進めるとともに、流通業界における矛盾と軋轢に苦しむかつての柿島と、彼を取り巻く敵対者、妻、そして彼らを結びつける過去が次第に明らかになっていく。

旧友が貶められた理不尽な死に、常軌を逸するほどの怒りを堀江があらわにしたのはなぜか?
無論、親友の死に怒りを覚えるのは当然だが・・・彼をココまで奮わせたもの。
己の意志を貫き守り続けんとする純潔の友、それはまさに堀江自身の理想、あるべきかつてのよき時代を反映した姿であった・・・それを踏みにじられたからだと、私は感じる。
純粋潔癖な柿島。彼を裏切った者達にかつての部下すらいる。柿島を慕い共に歩み続けてきた部下ですら「サラリーマン」という悲しくも逆らいがたい、時代の宿命に流されていく。
全体に突き通る一筋の意思。 それは堀江という人物を通して訴えられる、藤原氏の現代社会の希薄さや物理主義・合理主義・・・非人間的な世間への警鐘なのかもしれない。
美しい会話文、よどみない流れ、過不足無いストーリー・・・藤原氏の描く作品は至極理想的である。
どんでん返しや思いもかけないシカケのあるミステリーとはいえないが、(たとえ予想できるラストであったにしても)あるべきところに良き形で美しくラストを迎える、かくあるべき結末に導いてくれる。
あくまでそれを追及する藤原氏のスタイルが堀江を通してにじみ出てくる。
藤原氏の描く作品は・・・かくあって欲しいと願う読者の、理想的世界なのだと思い知る。

一つの作品の中に何度か出てくる、堀江の若者を褒めるシーン。
今時の若者も捨てたものではない、今の若者には珍しい・・・など。
それは逆を言えば「今時の若者」にはかつてのようjな「かくあるべき若者」の姿が殆ど見受けられないということだ。(だからこそ、よく出来た若者、礼儀のある若者を今時珍しいと賞賛するのだから)
今、彼(柿島・堀江・藤原氏)にとってかくあるべき世界の姿は急速に失われている。
裏切られ、ふみにじられ、排除される・・・柿島のように。
堀江は、そんな世界にあくまで抗った勇士である。

「理想」というコトバは、正直照れくさい。理想と現実を切りはなして現実社会に即しておとなしく生きるのが大人なのだと、誰もが知っている。
しかし、こうして一筋の意思を守り通すことのなんともいえない感動を私は知ってしまった。
死して尚、こうして私たち若輩者を律してやまない藤原氏の冥福を改めて祈りたい。

合掌


堀江の無二の友人・柿島が殺された。その謎に満ちた死に疑問を持った堀江は調査に乗り出す。そこには流通業界に横たわる新たな闇があった! 著者の遺作となった長篇ミステリー。『別冊文芸春秋』連載に加筆修正し単行本化。

名残り火 (てのひらの闇 (2))
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