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zoom RSS 『ラン』 by 森絵都

<<   作成日時 : 2008/11/10 09:38   >>

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フルマラソン42.195km。本書を読み終え閉じた私の前に、折も折、08年北京オリンピックの女子マラソンがTVの画面に繰り広げられていた。 故障により途中棄権した彼女の苦しい顔、悔しげな態度、彼女を支えるサポーターも目に涙を浮かべ、彼女の応援者、親族、誰もが悲痛な表情を浮かべている。 小中高とまともに5kmも完走したためしが無い私にとって40kmもの長距離をただひたすら走り続けるアスリートたちの精神力もその心も計り知れない世界である。
彼も彼女も。一体何に向かって、何のために走るのか?金メダル?名誉?金?地位?国民と応援者たちの期待へ応えるため?   ・・・いや、違う、きっと違う。 彼女らはみなSTARTと同時に1人だ。
そう、常に自分のため。自分の記録を乗り越え、自分の決めたゴールまで走りきる、ただそれだけのために「完走」を目指すのだ。42.195km。それは規格として決められた外部の距離でしかない。 己のゴールはいつも己の決めた限界の一歩先にある。己の生きてきた「昨日」の一歩先、一日先を、私たちは毎日生きているのだから。

先に結びのような文章を書いてしまったが、そんな気持ちを起こさせるような力強く懸命な物語だ。

彼女は事故で両親と弟を、続いて唯一の肉親である叔母も亡くし、友人も失いまさに天涯孤独の身。簡単に手が届いてしまいそうな「死」の世界は彼女にとって身近で曖昧。だから現実という己の生にも世界にも距離を置くし執着もしない、内に閉じこもって周囲を傍観している平凡な毎日だ。
そんな折、唯一の友人が去り際に残した自転車がきっかけで、彼女はあの世へと続く40kmの光の道を通り抜けることが可能となる。天国の1stステージに未だ留まる家族と会い続けるために40km完走の目的を果たすため、偶然知り合った寄せ集めのマラソン同好会?グループに参加する。
現実から逃げるよう家族のもとへと頻繁に通うが、天国の彼らはみな浄化され憎しみや悲しみの無いあまりに平穏無事な見知らぬ家族である。 余分な喜怒哀楽が次第にそぎ落とされ全てが均一化し解け混ざって個々の違いが解らなくなって行くことが2ndステージ、すなわち完全浄化(=昇天)し転生するステップであるという。
私の知らない家族、見知らぬ記憶、感情や思い出の混濁・・・それでもわずかな希望と家族の面影にすがるようにして通い続ける彼女の弱さは、何歳になっても親・家族をよりどころとしてしまう私自身の甘えと、いつまでも一歩を踏み出せずに閉じこもる弱さを思い出させ、そうした個を埋没させた上に成り立つ平穏無事の世界「天国」は私たちの思い描く明るく死者が「生きる」世界ではなく、死者から「者=人」をそぎ落とした後に出来上がる世界なのだと、そして私たちはそれに憧れすら抱いてしまう弱い人間なのだと、ドキリとする。

溶けてやがてひとつになってしまう「天国」はやはり死の世界でしかなく、私たちはこちら側=生の世界の住人であるために、争い、ぶつかり合い、喜び悲しみ笑いあって時間を共有するため、様々な他人との出会いと別れを繰り返さなくてはならない。 時にそれは辛いことも苦しく悲しいこともあるだろう、彼女のように様々な事情を抱えた人間関係の中では、40kmという長く苦しい道を必死に走り続けることでようやく得られる関係もあるのだろう。
彼女と肩を並べて走るマラソンメンバーは、それこそ最初はてんでバラバラ、仲間なんていいものじゃ決してなかった。
が、出会い、話しあい、ぶつかり合い、同じときと場所を共有し、気がつけば肩を並べて走っている。
誰のためでもない、この生きている世界に「ぎゃふん」といわせてやりたい、私はここにこうして生きていると知らしめてやるために、走っている。

書き出しに戻ろう。 
私は走るのが苦手だし、きっと一生、マラソンなんて縁はない。
それでも世界にぎゃふんといわせてやるため、私がここに生きている証を立てるためにこうして毎日を生きている。
きっとその先に「ゴール」があると信じているから。



ラン
理論社
森 絵都

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