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zoom RSS 『1/2の神話』 by 初野晴

<<   作成日時 : 2009/04/28 12:57   >>

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「彼と経験した、受難と、智恵の戦いと、自己犠牲の物語・・・」
と、ヒロインが序章を締めくくってこの物語は始まる。つまり読者はヒロイン・マドカと彼女のナイト・サファイア、いうなればお姫様と王子様が結ばれてハッピーエンド・・・にはならないという悲劇を最初に提示される。これは残酷だ。
さらにいえば、受難、智恵、自己犠牲、これらを切り抜け辛酸を舐め、どうにかしてようやく生きているマイノリティ(少数派)が社会的弱者としてこの格差社会には確かに存在し、彼らの耐え切れぬほどの不満や苦悩は時に以上犯罪という形でモンスター化する。彼女たちが暮らし愛する街で起き、解決していくいくつかの物語は、そんなか弱きモンスターたちが起したマジョリティ(多数派)への反乱である。

母をなくし警察官を父に持つ傷心の、しかも同性愛癖のある女子高生マドカは挑発の美人に恋をするが、彼女は女装趣味の男子で、しかもマドカ以外には見えないお化けだったため大失恋。それでもサファイアと名づけた彼、もとい、彼女とコンビを組んで、マドカは学校そして街全体に蝕み始める異常犯罪に立ち向かっていく・・・。
そしてその「異常」犯罪には社会一般多数からともすれば異常とされる少数派、社会的弱者の影が、加害者側にも被害者側にも必ずあった。

何をもって「異常」とするかはまた別の問題として、まず敵も見方もマイノリティ(少数派)。つまり異端とされる人、もしくは弱者、その他に分類されてしまう人間だ。
主人公のマドカからして同性愛者、彼女のナイトは女装趣味、協力するのはヤクザや探偵、もと恋人の「彼女」たちに目や足の不自由な少女たち・・・。けして差別するつもりはないが、やはり彼ら彼女たちは世間一般から見れば「小数派」であり弱者だ。
弱肉強食の大人社会で正当な仕事と対価をもとめた未成年の裏派遣「もりのさる」。
目の不自由な少女が盲導犬を殺され、最後の目である祖父が事件の鍵となる悲劇「ドッグキラー」
一人暮らしの女性という弱者ばかりを狙う侵入者に日常を犯され自殺者まで出してしまう「インベイジョン」
援助に頼り細々と生きなければならない擁護施設と運営のために身を尽くす天気予測者ハロを巡る毒薬散布事件「ラフレシア」 
美しいガラスの生成に使用する灰を作り出すための「あるもの」を得るため最悪の犯罪にまで手を染めた「グレイマン」

自分の存在を認めて欲しい、やらせて欲しい、かまってほしい、助けて欲しい、聞いて欲しい・・・自分で、自立したい。
そういう誰もが普通に抱き叶えていく願望があまりにも遠く入手困難な弱者が、私たちの生きるこの現実社会にも確実に存在するし、もしかしたらその彼ら彼女らは私たちのすぐ側にも存在しているのかもしれない。ただ、ソレを内に秘めているだけで、ずっと一人で孤独に苦悩に耐えているのかもしれない。

親友、慕ってくれる後輩、過去交際していた彼女、かつて恋人であった先輩、ヤクザに興信所の青年に、刑事を務める父親・・・そして、マドカを全身で守り愛してくれるお化け騎士・サファイア。

彼女たちの愛する街で起こる事件はきっと見えていなかっただけでずっと存在していた誰かの思い。誰かの苦悩のはけ口。彼らはマドカを苦しめ街を恐怖させ恐ろしい事件を起したけれど、それでもいつかは自然淘汰されてしまう存在だ。
弱肉強食のこの世界で「弱」者でしかなく、表の、明るい世界に存在する絶対多数の強者にはいずれ握りつぶされてしまう、消えるしかないか弱気抵抗者だ。サファイアが次第に消えていってしまったように・・・。
だからマドカは会いに行く。消えてしまったサファイアが「私」を待っているということを知っているから。

結末はベタな終わり方かもしれない。けれどサファイアが消滅する必然性、この流れは物語全体に貫く大きな流れの中で必要な結びだ。
哀しい物語かもしれない、痛い物語かもしれない。
けれど、彼女たちの出会いと別れと、再生にきっと誰もが心救われる。



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