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zoom RSS 『プシュケの涙』 by 柴村 仁 (電撃文庫) (文庫)

<<   作成日時 : 2009/05/25 10:53   >>

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高2の夏休み、むせ返るような教室で榎戸川が何気なく眺めた窓を、一人の女子が通過した・・・。
彼女の名前は彼方(かなた)。学校で女子生徒が4階から飛び降り自殺し、唯一ソレを目撃した榎戸川と友人・旭の前に見知らぬ男子生徒・由良が現れ根掘り葉掘り事件の真相を問い詰める。
キレイな顔立ちのくせ「変人」の異名をとる由良は自殺のはずはないと主張し揺さぶりをかけてくるが、事の真相は明らかにするにはひどく残酷でそっけないものだった。
文化祭の準備でにぎわう学校。受験に交友関係にと鬱々とした日々を過ごす受験生。
登校拒否や援交のうわさが飛び交う彼女。
空回りする空虚な日々の中、4階から落ちて死亡するというのはどれほどの確率だっただろう。

生きるということと同様に死ぬということに確かな意味もか確固たる意思も持つことの出来ない宙ぶらりんな日々が、私たちにも確かにあった。
思春期といえばソレまでかもしれない。 子供といわれてしまえば、それだけのことなのかもしれない。
けれど私もかつて、何もかもどうでもよく、何に対しても価値や重みを見出せず、ただ漫然と「どうでもいい」日々を過ごしていた時期があったのだ。
私があの時死ななかったのは、きっと4階から落ちて死ぬかどうか程度の微妙で、けれど単純な確率でしかなかったのだ。
窓辺に立つ彼女がいくつかの偶然とちょっとした弾みと、落ちた先の状況と・・・ほんの少しずつの確率で彼女は死んだ。
けれどそれはきっかけがあったかどうかという、ほんの少しの違いしかなかったのかもしれない。
そう、あの時、あの頃、何もかもがどうでもよくすべてがあまりにあやふやで価値を見出せない世界だった。
そんなことを、ふと思い出す。
彼女が死んで、彼女の死の真相が明らかになる。それまでの、半ばミステリー仕立ての物語が前半。

そして後半はそんな彼女・彼方と真相を求め続けた男子・由良の物語だ。

母が入院し一人家を守ろうとする彼方には校則に反しても、クラスメイトの冷たい視線を無視してもバイトを続けなくてはならない理由がある。離婚して堕落しきった元・父親が金をせびりとり、居つかれた家から逃げるようにネカフェで寝起きする・・・誰にも話すことが出来ない、打ち明けられない苦しみで彼方は呼吸できずにいた。
けれどようやくたったひとり、本音を話せる、声を上げて泣き顔も寝顔も見せることが出来る人間に出会った。
美術部で出会った別クラスの男子・由良はキレイな顔をして何の臆面もなく奇行を仕掛けてくる変人だったが、
彼のその純粋で奔放な、そして何にも誰にも属さない力強さは彼方にとって予想外のものだったに違いない。
連れションをしない女子。放課後真っ先に帰宅する、媚を売らない転入生。そんなのは真っ先に「標的」にされる。
同じ「一人」でありながら、由良は孤高に居場所を作り、彼方は孤独に居場所をもてずにいる。
だから、彼方は由良に惹かれたに違いない。

 「私はここにいる―あなたのそばは、呼吸がしやすい。
  ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。」

由良にリクエストされたのは蝶の絵。そして実物(標本)を模写すべく向かった4階の生物室から、彼方は「自殺」した。


前半と後半、物語は繋がっているけれど、全く別の物語にすら思える。
前半に彼方の人格が現れることはない。
メインとなるのは無味乾燥な毎日を鬱々とすごす榎戸川と、既に死んでしまった吉野彼方の死因を絶対に自殺とは認めない由良と、もう一人の当事者・旭の怯える姿が描かれ、最終的にその真相がわかる。それだけの話だ。
一人の少年がなぜこれほど懸命に自殺を否定し、彼女の死を悼み、悔んだのか?
そこにこそ謎が在り、その真実が後半のすべてである。

後半。
既にいない彼女と彼の物語を知らなければ、こんなに心は痛まない。
ようやく居場所を見つけ呼吸を始めた彼女と、ようやくプシュケの心による愛を受けた少年の物語を知らずにいれば、これほど切なく、哀しい思いはしない。

ギリシア神話における美女プシュケは女神の嫉妬により数々の試練を受け、それでも愛する男のため、苦難を乗り越えて女神に昇格した愛の女神である。容貌や見せ掛けではない、心にこそ愛を感じ取ると説くその魂は蝶のモチーフに象られる。

その蝶を描ききることなく死んでしまった彼女自身、ようやく羽化したばかりの蝶だったのに・・・由良も誰もがその美しく翔ぶ姿を見ることなく、二度と取り返しの付かない時間を過ごしていく。
怠惰で、無意味で何の味気もない日々を無遠慮に過ごしているだけの人間は残り、「生きて」いこうと本当の意味で呼吸をしている人間が、逝ってしまう。
すべてが皮肉で、すべてがやるせない物語だ。

それでも彼女の生きた物語を知ることに意味があると思えるのは、彼女の涙が決して悲哀にくれた涙ではないからだ。

内容(「BOOK」データベースより)
「こうして言葉にしてみると…すごく陳腐だ。おかしいよね。笑っていいよ」「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」…あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる―あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか?その謎を探るため、二人の少年が動き始めた。一人は、飛び降りるまさにその瞬間を目撃した榎戸川。うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は“変人”由良。何を考えているかよく分からない…そんな二人が導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい。


プシュケの涙 (電撃文庫)
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柴村 仁

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