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zoom RSS 『光待つ場所へ』 by 辻村深月

<<   作成日時 : 2010/08/23 13:36   >>

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辻村氏の作品を読むとき、私はいつも怖くなる。
著者の描く少女たちはおそらくその一部、もしくはすべてが著者自身の過去であったり現在だ。
そして30歳を迎えた辻村氏と同年同月生まれの私にとっても、そこに描かれる彼女たちの物語はやはり他人事ではない。感情移入とか同感とかの問題ではなく、むしろ身につまされる思いがする、とでもいうのだろうか。
主人公たちの小生意気に大人ぶって、どこかにコンプレックスを抱えつつ、器用貧乏に不器用に生きる様は かつての私に良く似ている。
そして本作では初っ端から、たった3ページ目からやられてしまった。

生徒たちの提出課題作品の中からぬきんでてよい作品があったと教授が発表するシーン。
皆の前で紹介されるのは私の作品だという確信をもって次の言葉をまつ、あの照れくささと優越感に満ちた数秒間、そして期待を裏切り違う人間の作品が選ばれた時のあの羞恥と絶望。
あの天国と地獄を味わっている人が他にもいたなんて!それが正直な第一印象。
そして自分とよく似たその主人公、清水あやめとそのとき名前を呼ばれたもう一人の天才、田辺の物語を読み進むうち そんな感想すらも私の驕りであることが嫌というほど思い知らされた。
そうして打ちのめされて読み始めた一作目「しあわせのこみち」。

主人公のあやめは自分の「感性」に自信をもち、人並み以上の自分の力量に安心している、ある意味傲慢な大学生だ。しかし、どうせ最後は自分が選ばれるという彼女の自信とプライドは 圧倒的に自分を凌駕する男子学生の映像作品がより評価された瞬間打ち砕かれた。
完全な敗北、自分だけがしる羞恥心を覚える彼女だが、そんな彼女を彼、田辺は見透かしている。
田辺と言葉を交わし、彼に誘われ友人たちの展示を観に行き、彼もまた「友人」との距離にある孤独と葛藤を抱えていることを知る。
あやめは自分が本当に書きたい道、「しあわせのこみち」を描くことが出来るのか。
全てが最後の美術展に答えがでる。

「チハラトーコの物語」
本物のオタクでありアイドルであること、そして嘘つきであることをじふする29歳チハラトーコ。
トーコは自分を嘘で固めてきたがその嘘に「他人も自分も傷つけない」という一定のルールをもち、それが彼女を支えてきた。嘘に気付いた友人に過去と初恋の「先生」のことを感づかれるまでは・・・。
最悪の形で最愛の人を嘘で傷つけることになったトーコはもう一度「美学」を取り戻せるのか?

「樹氷の街」
中学3年の合唱祭を前にピアノ伴奏者倉田の楽譜が捨てられていた。しかしそれは 自由曲「樹氷の街」に苦戦している倉田自身が自分のプライドを守りつつ伴奏を降りるための自作自演であったらしい。
クラスメイトたちは天才的な腕をもつ松永に伴奏を依頼することにするのだが、彼もまた海外留学という
選択肢を前に悩んでいた。

実は3編とも辻村作品のスピンオフになっているのだが、そんなことは全く関係なく読める。
というのもこちらから先に読む場合、その読者に寄っては先に出た作品の方がスピンオフになる訳でそれはそれで全く違う印象を受けるかもしれないからだ。
しかしそれでも彼女らの生き様、苦悩、成長、愚かさ、愛おしさは変わること無く読者に伝わるだろう。

本作に登場する主人公はそろいもそろって下手なプライドと使いこなせない才能の持ち主で、厄介なことにその才能を自覚していながらもひけらかさず、他人を傷つけないことで自分の安全圏も確保している。
そういう自己陶酔、自分だけのルール、優しさという自己防衛でがんじがらめになってしまうことが、きっと私にも有るし、だれにでもある。だから、辻村の作品を読むといつもドキリとするのだ。

そしてそんな彼女らと私と、おそらく辻村氏自身の物語の結末に 一つの明るい方向性が、再生の道が用意されている。
ハッピーエンドというほど確かなモノではないかもしれない。
現実的に考えれば、だれもがそんな成功する訳でも、もちろんない。
それでも、誰もが自分の中にケリをつけた時きっと人は出口の光を見いだすのだろう。


辻村氏の作品はいつだって自分自身の弱さ、視界の狭さ、未熟さ、おろかさを等身大に暴き出す。
けれどその後に一筋の光が必ず差し込んでいる。
光待つ場所へ。その光が、さしこんでいるのである。

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