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zoom RSS 『西巷説百物語』by京極夏彦

<<   作成日時 : 2010/12/16 10:04   >>

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なんともファン泣かせの一冊。長い長いこのシリーズ、完結したと油断していたのだが京極氏のエンタメ性を甘く見ていたらしい。既刊4冊は時代を前後しつつも同じ江戸を舞台としていたが今回は西。時代の次は場所を移動してシリーズを続けて来たのである。
しかも憎いことにキャラクターは総取っ替えしつつ、最終章では既刊でおなじみの又市が顔を見せる。
そもそも本書の主人公、霧船の林蔵は御行の又市とは義兄弟だ。彼の一味には裏世界の小悪党を束ねる一文字屋仁蔵、大入道の荒法師玉泉坊、変装の達人文作に幽霊芝居のお龍、しかけの柳次といった曲者がそろっている。みな、表とは違う裏世界での二つ名を持つ「小悪党」で、そのあたりの後世は既刊(東)も本作(西)もあまり変わらない。
内容だって言ってみれば「憑き物落とし」「因果応報」には変わらないのである、がしかし東と西でその印象はガラリと変わるから面白い。

江戸には武士、商人、はては非人など細分化された格差身分に加え外部からの出入りがあり様々な「人種」が混在している。同じ人であって人でない、やりようの無い感情や通じない世界が吹きだまりになっているのが江戸なのだ。
死んで恨みを晴らす、死んであの世で結ばれる、化けて出るなどといういじけた感情はどこか厭世的で、同時にあちらの世界死後の世界に希望を持っているようにすら思える。だから幽霊怪談の類いがやたらでる。

これに比べて西は、上方は非常にストレートで解りやすい。
物語としては相変わらずの調子で、京極氏によるいくつもの仕掛け、謎と怪奇で満ちていることに東も西も変わりはない。
ただ西に関してはおとしまえを付ける、それも生きているうちに、というスタイルが有る。
死んでなんぼのもの。金も恩も生きているうちに返せ、報いる物には報い、自らの罪も業もきっちり背負ってこの世を全うする。それが西流の生き様であるように描かれている。

「こまやかな情をかわすのは生きた者同士、死したる後は無情なり」と本文にもある。
彼ら上方(西)者にしてみれば江戸の粋や相対死、心中モノは涙を誘うが何も残らないし湿っているのだろう。

1.桂男 
2.遺言幽霊水乞幽霊
3.鍛冶がカカ
4.夜楽屋
5.溝出
6.豆狸
7.野狐

それぞれの物語は最終章で客観的に語られているように、見方に寄ってはどこにでもある世間話。
そしてその影には必ず林蔵たちの姿が有り、もう一つの顔、もう一つの展開、もう一つのカタチがあり、そちら側からの物語を、私たち読者は幸いにも読みすすめていく。
だからこの最終章「野狐」は本書の統括的な、そして異色な章といってもよい。
林蔵と又市たちの関係が語られ東と西が繋がる。
表向きの真実と裏の真実とが語られ二つの世界が揺れ動く。

各章に登場する人々はみな、彼ら裏世界の人間、林蔵に眼をつけられる程の「負債」を抱え込んでいる。
表にはけして出すことの出来ない罪、記憶に残してはいられぬ程の業、そうしたものを無視し無かったことにして、何喰わぬ顔をして、こちらの世界でまだ生きている彼らの前に現れる林蔵たちがどのような「西流」の帳尻合わせをしてみせるのか。
東とは全く違うもう一つの憑き物落しをご覧有れ。


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『西巷説百物語』/京極夏彦 ◎
京極夏彦さんの、『巷説百物語』シリーズ最新作!このシリーズ読んでたの、もう4年も前なんですねぇ。一人でやたら盛り上がってた記憶があります(笑)。 本作『西巷説百物語』で主人公を務めるのは、靄船の林蔵(もやぶねのりんぞう)。 彼もまた、これまでのシリーズの又市のように、口先三寸で相手を惑わし、仲間の能力を最大限に生かして事に当たる。 「人のなせる罪悪」を「人ならぬ者の仕業」として事を丸く治めるのは、又市ら「ゑんま屋」の江戸組と同じだが、さて上方流の始末の付け方とは・・・。 ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2011/09/05 22:52

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
空蝉さん、こんばんは(^^)。
長らく間があいていましたが、シリーズ最新刊ですねぇ!ワクワクしながら読みました。
林蔵をメインとする、江戸とはまた違う上方の始末譚、面白かったです。
最後に又市と百助さんが出てきたのも嬉しかったです♪
水無月・R
2011/09/05 22:58

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