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zoom RSS 『お台場アイランドベイビー』 by 伊与原新

<<   作成日時 : 2011/06/06 16:28   >>

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今日の午後3時、「大地震」が置きた。未だ余震が続いている。

幸いなことに生まれてこのかた、一度も大きい災害被害というものに遭遇したことがなかった私にとって、火災や倒壊、浸水が次々と起こる中、交通手段も食料も情報すらも確保出来ない「無法地帯」を少なからず経験したことになる。
平穏無事で物余りの消費社会に慣れきった戦後生まれの日本人は、どれほど他国の荒廃や廃墟、崩壊という状況を情報では知り得ても、実際にその当事者にならない限りその恐怖も実情も知ることは出来ない。
「国」の崩壊は法も規制も国家そのものも失ってしまう。国家が失われるということは、国籍もアイデンティティも、自分が何者かも失うということだ。
本書は現在抱える経済&政治的諸問題の脆弱さが露見し完全に廃墟と化した国家という、もしかしたらあり得る日本の姿である。

第二次世界恐慌と大震災により壊滅した日本では都知事によるワンマン復興プログラムだけが蹂躙し、東京は反社会的なコミュニティ(コロニー)がいくつも点在する無秩序な廃墟と化していた。

元警察官/巽が偶然知り合った黒人系の少年/丈太は何故か暴力団に追われつつ入院したまま姿を消した母親を捜しているが、兄貴分である少年に殺人の容疑が掛かったことから、少年課の元同僚みどりを巻き込んでその裏に隠れている問題はが明らかになって行く。

丈太たちはおそらく大震災後の特別措置法により強制送還された外国人不法滞在者の一斉検挙で、親も職も家も国籍も失った「震災ストリートチルドレン」である。
その数は何故か異常なほど膨れたがっておりその謎を負ううちにみどり達は一人の思想家の影をみた。
全てを失った彼らを完全な自己決定いう無政府主義のもと連れ出した思想家カルロス・オオスギというその男はいったい何者で、彼らを率いて何処で何を企んでいるのか?
埋蔵金の噂されるお台場カジノリゾート跡地、関東大震災後の朝鮮人大虐殺を思わせる一斉摘発、アナーキズムが動きを見せ独自のコロニーが点在する東京、復興の名の下に独裁権力を振るう知事。
様々な要因が丈太という一人の孤児を中心に、彼の島・・・お台場へと繋がって行く。

こうして書くと国家絡みの事件に一人の少年が鍵となって巻き込まれた、その謎の解明ともくろみの解決の物語かと思われそうだが(確かにそれもあるのだが) メインはきっとそれでは無い。

人は生きている限り自由になれるのか? 鎖にしばられること無く生きられるのか?
逆に、人は鎖無しに生きることが出来るのか?ということである。

大阪弁で粗雑なおっちゃんキャラの元刑事巽は、息子を死なせてしまった取り返しのつかない過去に。
熱心な女刑事みどりは同性愛者である性癖と歪んだ羨望、少年係としての非力さ、自分の怠慢が部下を死に追いやったという負い目にそれぞれ縛られ続けている。
そうした内面的な鎖を、人は生きて行くうちにたくさん背負って行くことになる。

そしてもう一つ外的な鎖・・・国、家、慣習、社会、規律、文化など多くの鎖のもとに生まれつき、その鎖に縛られたまま、今度は自ら様々な鎖を繋いで生きてくのだろう。

では国家という大きな「鎖」のもとに生まれつかなかった子供は、自由だろうか?
そこに思想家カルロスオオスギは完全なる自己決定と自由と解放を求めた。

自由と平等は両立しない。
それは何度となく言われたことで、社会に出れば自己責任という重荷に嫌というほど思い知らせれる。

しかし自由と解放もまた両立しないのであろうか?

「ホンマに自由になりたければ孤独を覚悟せなあかん。」
巽が、誰もがひとりぼっちで生きる東京の人波の心地よさを語った言葉である。
そしてオオスギとなった王、「彼」にむけて放った言葉は、私の心と「鎖」にひびいてくる。
それを、是非読んで欲しい。

人間は誰もがきっと鎖をひきずって生きている。それがたとえどんな重しでも、断ち切れぬ鎖でも切りたい鎖でも、それらすべてに縛られてそれでようやく生きて行けるのではないだろうか。
私も、彼らも、きっと一人で真っすぐ立っていられるほど、人間は強くない。

人は自由でありたいと思う。
縛られれば反発して解放されたいと、鎖を疎ましく思い、重荷となる過去や立場を呪うだろう。
しかし、完全に解き放たれなくとも、鎖を背負ったままでも、人は自由になれるのではないだろうか。
様々な鎖に支えられながら、人はまだ強く生きて行ける。
逞しくお台場で生き続ける彼らの姿に、その片鱗を見ることが出来るはずだ。


残念なのはみどり。
せっかくああしたキャラ設定なのに、彼女だけなにも解決されていないように思われる。




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伊与原 新

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