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zoom RSS 「オジいサン」by京極夏彦

<<   作成日時 : 2012/01/18 13:24   >>

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京極氏には珍しい、ミステリでもホラーでもなくお笑いエンタメ系でもない・・・独り身で理屈屋、72歳のおじいさん、益子徳一による一人称の物語だ。
時間軸で考えれば彼の回想をふくめると非常に長いスパンを含んだ物語、けれど彼が繰り返し言うように
「老人の1秒は長く、1年は短い」 
彼のたった1日と数日前の記憶は本書1冊にまでふくれあがり、しかし彼の生きてきた長い時間・・・思い出話はいつも数行の「言葉」で収まってしまっている。

いや、老人でなくても退屈している時、人はその瞬間は時間があまりにも長く感じ、(これもまたのど元すぎれば熱さ忘れるとでもいうのだろうか)退屈が終わった瞬間、その不毛なスパンは何もなかったかのようにつぶれてしまう。空の段ボールがぺしゃんこになるように。

だからこの老人が行く先々で逐一、詰まらぬこととるに足らぬことに執着したり、ひたすら思い出そうと躍起になっている姿はなんだかかわいくて、面白くて、少し哀れで、悲しい。
連想ゲームのように屁理屈をひとりこき、ああでもないこうでもないと考えを巡らせ、でも結局「そんなものか」とあきらめてしまう。いや、達観しているのだと実は意地になっているのかもしれない。

彼は自分のことをこんな風に言っている。
「苦しくもなく辛くもなく、別段嬉しくもないが、普通に、平凡に、ただ生きている」

そしていつも先ほどの答えに行き着くのだ。
自分という仕事もすることも何もない、家族も友人も何も残っていない老人にとって
1秒を切り抜けるのはどれほど長く感じ、振り返ったとき1年は何もなかった空虚な物になるのだと。


とはいえ、本編はそんなくらい話でもまじめな話でもない。
普通に読んでいると老人が細かいことに逐一難癖つけたり屁理屈をこねているだけの淡々とした、ちょっとユーモラスな作品だ。
どこかで「おじいさん」いや「オジいサン」というふしぎなアクセントで呼ばれた覚えがあるが、どこでだれにそう呼ばれたのかが分からず、益子徳一は公園へ出かけ、電気屋やスーパーなど町内をうろついて帰る。
電気屋の跡取り息子がやたら勧めるジデジ(地デジ)がどうだとか、最近は電球しか買わない自分が上客かどうかとか、スーパーに行けばウインナーの試食をした自分は買わなくては行けないのかどうなのかとか、それをどう調理すべきかどうかとか、かごに入れた物は返していいのか悪いのかとか・・・
どうでもいいようなことに彼はやたら必死になって「考えて」いく。
なにしろウインナーひとつ炒めるのに、キャベツを入れるか付け合わせの卵はゆでるか炒り卵か、氏をお古か醤油にするかはたまたソースか・・・など、本当にあれこれうじうじと考えるのである。
気が短い人なら「そんなことどうでもいいだろ」「こうすりゃいいだろ」と一喝するに違いない。

ただそうして一瞬一時を細かく精密に、必死に「考え」て生きているこの老人を観察していると
何気なく何も考えずなんとなく、ただ忙しく時間を浪費している自分に気付き ふと思うのだ。

老人の1秒は長く1年は短いというが、はたしてそれは老人だけのことだろうか。
いや、1年が長かろうが短かろうが、それにさほど違いが、意味が有るのだろうか。と。

本書はあくまでもいち老人の独り言であり、彼のしょうもない日常が、ドラマ「24」のように事細かに、時間の経過とともにゆっくりと描かれているだけである。
けれどこの日常が老人一般のみにあてはまるものだとも、思えない。

まあ、肩を張らずに何となくでいい、よんでみるといい。
ちゃんと最後は報われる。 途中経過も多少退屈するかもしれないがつきあう価値はある。
たまには老人の「退屈な時間」にそって自分の時間の長さと密度を見つめ直してみてもいいのではないかと、思う。



オジいサン
中央公論新社
京極 夏彦

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